熱中症についてのページで何度か出てきた「体温」。定義では「40℃以上なら熱射病」「40℃以下なら熱疲労」と、熱中症において体温はとても重要なポイントとなります。ちなみにこの定義ででてくる体温は深部体温(=直腸温)を指します。

深部体温(=直腸温)とは、直腸で測った体温のこと。直腸とはつまり、肛門(お尻の穴)に体温計をさして測る体温のことです(普通の体温計を肛門にさしてもダメですよ!専用の体温計がありますからね!)。

直腸は外気 (周りの環境)の影響を受けないので、より正確な体温を測ることができるため、基準として使われます。死体の検視でも直腸で体温を測るそうです。

しかし、直腸で体温を測ったことがある人は、どれくらいいるのでしょうか。トレーニング中にパッとはかれるような部位でもないし、直腸で体温をはかることができる体温計を持ってる人なんて、かなり限られていますよね。

日本で一番主流なのは、「わきの下」に体温計を挟んで計る方法です かね。最近は「口(舌下)」で測ったり、「耳」に体温計をさして測るタイプの体温計も出てきました。体温を測ることができる部位はたくさんあるんですね。

しかし果たして、体温を測る部位が違っても、結果として出てくる体温は同じなのでしょうか?直腸で測る体温が一番正確なのであれば、他の部位で測る体温は正確じゃないのでしょうか?

熱中症の種類については「【まとめ】4種類の熱中症のメカニズム・原因・症状」の記事で詳しく解説しています。


>>「体温」についての研究をまとめた論文がコチラ。

temperature-systematic-reviewNormal oral, rectal, tympanic and axillary body temperature in adult men and women: a systematic literature review
健康な男女(18歳以上)の体温を「口(舌下温)」「耳(鼓膜温)」「わき(腋窩温)」「直腸(直腸温)」の4カ所から測り、部位による体温の違いと、体温の男女差はあるか、を調べたシステマティックレビューです。

注意】この参考文献で使われた論文は、ほぼすべてが「安静時に」「室内で」体温が測られています。

この記事のイントロで熱中症の話をしましたが、「運動中に」「暑屋外の環境下で」体温が測られた場合、もっと違う体温が出てくるであろうことは予想ができます。

今回の記事で出した結論(=体温を測る部位による体温の誤差)は、あくまで安静時に室内で測られたときに推測できるもの。運動中に屋外で測られた場合は、この推測は使うべきではないことをご了承ください。

部位による体温の違い

参考論文の1つであるシステマティックレビューでは、体温について研究された20の論文をまとめたものです。その結果が下の表です。

  • Oral=口
  • Rectal=直腸
  • Tympanic=耳

左側がMen=男性で、右側がWomen=女性です。

「Number=研究の中で扱った患者の数」。「Mean=平均値」。『Range=この研究で扱った患者の体温の範囲」を示します。

まずここで1つ。あれっ?わき(=腋窩)で測った温度が表にない。。。

この論文には、わきで測られた体温は、生理学上の体温調節機能の原理に沿って考えると、舌下温・直腸音・鼓膜温と同じように扱われることはできない、と示されています。つまり、わきで測る体温は正確ではない可能性が高く、信頼できないということ。今までずっとわきで体温をはかってきた僕としては、少しショックな結果ですね。。。

Range(範囲)

temperature-bear

それでは上の表から、まずは「Range=範囲」に注目してみましょう。

  • 口=男:35.7〜37.7℃  女:33.2〜38.1℃
  • 直腸=男:36.7〜37.5℃  女:36.8〜37.1℃
  • 耳=男:35.5〜37.5℃  女:35.7〜37.5℃

口で測定された体温では、男性で約2℃、女性で約5℃も範囲があり、人によってかなり誤差が出ていることがわかります。耳で測られた体温も、男女ともに約2℃の範囲が見られました。

その一方、直腸で測られた温度の範囲はかなり狭いですね(男性は0.℃, 8女性は0.3℃とともに1℃以内)。直腸で測られた体温は誤差がほとんど出ず、正確に測られていることを示します。

しかし、ここで出た体温の差は、測る部位によるものだけではありません。「体温を測る時間(朝?夜?)」「周りの温度や季節(夏?冬?)」「服装(Tシャツ?コートを着てる?)」などによっても体温は変化し、影響を受けている可能性があります。

Mean(平均値)

次に「Mean=平均値」についてみてみましょう。

  • 口=男:36.7℃  女:36.2℃
  • 直腸=男:37.0℃  女:37.0℃
  • 耳=男:36.5℃  女:36.6℃

直腸体温が、男女ともに3つの中で1番高く出ました(男女とも37℃)。耳(鼓膜温)は、男女ともに直腸温よりも約0.5℃低く出ています(男36.5℃, 女36.6℃)。口(舌下温)は、耳と似たり寄ったりですが、男の方が女よりも0.5℃高く出ました。

わきで測定する体温は?

temperature-armpit

さて、ここまで直腸温・鼓膜温・舌下温についてみてきました。しかし、やはり日本ではわきで測る体温計が一般的で、わきで測る体温計しか持ってないよ、という方もたくさんいると思います。

生理学的に考えると、あまりわきで測られた体温は信頼できないとありましたが、腋窩温(わきで測られた体温)についても少しみてみましょう。

この論文は20の論文の結果をまとめられているのですが、その中で腋窩温も研究に含まれたのは4つの論文。その4つで示された腋窩温の平均値はそれぞれ「36.3℃」「35.9℃」「36.1℃」「35.8℃」でした。

この4つの平均値の平均を出すと約36.0℃となります。直腸温の平均と比べると約1℃も違います。それくらい誤差が出やすいために、わきで測る体温はあまり正確ではないと言われています。

まとめ

日本で一番一般的な、わきで測る体温(腋窩温)を基準にすると、

  • 直腸温は、腋窩温よりも約1℃高い
  • 口(舌下温)と耳(鼓膜温)は、腋窩温よりも0.5℃高い

つまり、わきで測られた温度は低めに出ます

最初にも言いましたが、これは「安静時に」「室内で」測られたときの温度の誤差。屋外での運動中に、熱中症の疑いがある人の体温を測った場合、口、耳、わきでの体温は直腸温よりもかなり低くでてしまいます。

熱中症のページで「熱射病は40℃以上」「38〜9℃台であれば熱疲労の可能性」と言ってきました。

熱中症の疑いがある人の体温をわきや口、耳で測って37〜8℃台だったとしても、それは直腸温よりもかなり低く出ている体温。それを信じて、これは軽い熱中症だ、と思うことは危険です!

直腸温を測ることが一番ですが、それができない場合、最低でも、口、耳、わきで測る体温はかなり低めに出てしまう、ということを知っておきましょう。

【追記】熱中症に特化したブログ「熱中症ドットコム」の運営をはじめました。体温については「 運動中の正確な体温の測定方法は?重要なのは体温測定の部位|熱中症ドットコム」もぜひご覧ください。

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