以前「肩のスペシャルテスト【肩鎖関節・インピンジメント・上腕二頭筋】」という記事を書きました。

今回は、以前の記事に含めなかった「ローテーターカフ(回旋筋腱板)」の損傷をチェックするスペシャルテストを解説します。

肩関節の専門である整形外科医71人にアンケート調査を行い、肩の怪我・傷害をチェックする際にどのスペシャルテストをよく使うのか、を調査した論文より、トレーナーが知っておくべき、ローテーターカフ損傷を見極めるときに使うべきスペシャルテストを紹介します。


>>参考文献はこちら。

  1. Frequency of Use of Clinical Shoulder Examination Tests by Experienced Shoulder Surgeons
    肩関節が専門の整形外科医71人が、肩の怪我を評価・診断する際に使うスペシャルテストを調査し、まとめた論文です。
  2. Orthopedic and Athletic Injury Examination Handbook
    大学院のATプログラムで使っていた、スペシャルテストの教科書です。英語ですが、非常に多くの種類のスペシャルテストが載っているため良書です。

ローテーターカフ(回旋筋腱板)損傷のスペシャルテスト6選

アンケートをとったドクター71人の、50%以上が使っていると答えたローテーターカフの損傷を見極めるテストは、全部で6つありました。

1つずつ紹介していきます。

1)Belly Press Test(ベリープレステスト)

このテストが、ローテーターカフ損傷を見極めるスペシャルテストの中で、一番多くのドクターによって使われているものでした。

ローテーターカフの中でも、肩関節の内旋筋である肩甲下筋の損傷を調べるテストです。

  1. 患者は座位または立位。
  2. 患者は肘を90度に曲げ、手のひらを自分のお腹にあてます。
  3. トレーナーはお腹と手のひらの間に手を入れます。
  4. もう一方の手で肘を支えます。
  5. 肘が動かないようにしつつ、トレーナーは患者の手をお腹から離す方向に力を加えます。
  6. 患者はお腹から手が離れないように抵抗します。
  7. 痛みや、お腹から手が離れてしまったら陽性です。

注意しなければいけないのは、患者による代償作用です。

肩関節の内旋ができないとき、患者はそれでもトレーナーの力に抵抗しようと、手首を曲げて、手首を曲げる筋肉で力に抵抗しようとします。

いくら力に抵抗できているからといって、すぐにこのテストは陰性だと思わず、患者がどのように力を入れているのかを気をつけて見ましょう。

2)Drop Arm Test(ドロップアームテスト)

このテストは、棘上筋の損傷を調べるテストです。

  1. 患者は立位か座位。
  2. このテストは、トレーナーは基本は見てるだけです。
  3. トレーナーは患者の腕を持ち、肩関節を外旋させ(てのひらが外側を向く)、そこから180度外転してもらいます(指先が天井を向く)(動画は90度ですが、180度外転させましょう)。
  4. その状態で、トレーナーは患者の腕を離します。
  5. 患者はそこから、肘は伸ばしたまま、ゆっくり腕を下におろしていきます。
  6. 突然力が入らなくなって、ゆっくりのスピードを保てずに腕がおりてきてしまったり、おろしてる途中で痛みが出たら陽性です。

このテストが陽性の場合、棘上筋の完全損傷の疑いがあります。

上のBelly press testでも言いましたが、ローテーターカフの損傷によりうまく力が入らないとき、違う筋肉を使ったり、体を傾けるなどの代償運動によって補おうとする可能性があります。

トレーナーはテスト中のフォームを気をつけて観察しましょう。

3)Empty-can Test(エンプティカンテスト)

上のDrop arm testと同じく、棘上筋の働きを調べるテストです。

  1. 患者は立位か座位。
  2. 肩関節を肩甲骨面上で90度外転させ、更に内旋させます(親指が地面を向く)。
  3. そこから、トレーナーは患者の手首〜前腕あたりを上から持ち、地面の方向に力を加えます。
  4. 患者はその力に抵抗します。
  5. 力に抵抗できなかったり、痛みが出たら陽性です。

4)Lift Off Test(リフトオフテスト)

a) のBelly press testと同様、肩甲下筋の損傷をテストします。

  1. 患者は立位。
  2. テストする肩の肘を約90度に曲げ、手の甲を腰あたりの背骨にあてます。
  3. その状態から、患者は手の甲を背骨から離すように、後ろ側に持ち上げます。
  4. もし手の甲を背骨から離すことができない(=手を後ろ側に持ち上げられない)場合、陽性。肩甲下筋の損傷が疑われます。

このテストでも上記のテストと同様、代償運動が起きていないかをチェックしましょう。

体を前に倒すことで手を無理やり腰から離そうとすることがあります。

5)Hornblower Test(ホーンブローワーテスト)

ローテーターカフの小円筋と棘下筋を調べるテストです。

  1. 患者は座位でも立位でもいいです。
  2. テストする肩を、90度肩甲骨面で外転させます。
  3. そこからさらに肘を90度屈曲させます。
  4. そこから、トレーナーは肩関節を内旋させる方向に力を加え、患者はその力に抵抗(=外旋方向に力を入れることになる)します。
  5. もしトレーナーの力に抵抗できなければ陽性です。

6)External-rotation lag test(外旋ラグテスト)

棘上筋と棘下筋の断裂の有無を調べるテストです。

  1. 患者は座位。
  2. テストする肩の腕の肘を90度屈曲。
  3. そこから肩甲骨面で約20度挙上(外転のようなもの)。
  4. その位置を保ちながら、肩関節を最大外旋させる。
  5. トレーナーはその位置で腕を離し、患者にその位置を保ってもらう。
  6. 保つことができたら陰性。できなければ陽性。棘上筋か棘下筋の断裂が疑われます。

まとめ

肩のスペシャルテストその2ということで、ローテーターカフの損傷をチェックするスペシャルテストを紹介しました。

ドクターがよく使うスペシャルテスト=信頼できるテスト、とは必ずしも言えませんが、参考にしていただければと思います。

トレーナーとして選手にこれらのスペシャルテストを行う際は、これらのスペシャルテストで怪我の「診断」を行おうとは思わないようにしましょう。診断ができるのは医者のみです。

どのテストでも痛みが出ないようなら、とりあえず数日は安静にさせれば大丈夫そうかな?とか、どの怪我かわからないけど複数のテストで痛みが出るから、病院(整形外科など)に行って診てもらった方がいいな、とかを判断する材料として、スペシャルテストは使いましょう。

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