CPRとはCardio Pulmonary Resuscitationの略で、心肺蘇生法のことです。具体的に言えば、多くの方がイメージされるであろう、倒れてる人に対して行う心臓マッサージと人工呼吸です。

滅多に起こることではなく、自分がその場に居合わせるということは、もしかしたら一生に一度あるかないかという確率かもしれませんが、いざそのような状況に遭遇したときに適切な応急処置ができるかどうかで、倒れている人の生存率が大きく変わります。

「心停止」というのはスポーツ現場だけでなく、日常生活でも充分起こり得ることです。もし目の前で自分の親、友人、大切な人が急に倒れて意識を失ってしまったときに、あなたはその方を助けてあげられるでしょうか?

倒れている方全員とは言いません。せめて、皆さんの身の回りにいる大切な方が急に倒れてしまったときに、冷静に、適切に応急処置ができるようになってほしい、そんな思いで今回はこの記事を書かせていただいています。


>>CPRは国や団体によってマニュアルが変わりますが、今回は日本赤十字社の指導法を参考にしています。

japan-red-cross心肺蘇生|日本赤十字社
日本赤十字社による心肺蘇生法のガイドラインです。日本赤十字社のウェブサイトは、トレーナー・運動指導者は必読ですよ。

aed-association「AEDを使用した心肺蘇生法|特定非営利活動法人 AED普及協会
追記:2018/8/1】先日職場で、AED普及協会の方による「AEDを使用した心肺蘇生法」の講習を受けました。とても勉強になったので、そこで得た情報を追記しました。

心肺蘇生法の手順

それでは早速、心肺蘇生法の手順を1から紹介します。

1)傷病者と周囲の安全確認

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傷病者(=倒れている人)を見かけたら、すぐに近づくのではなく、まず周囲の安全を確認しましょう。

練習、試合中であれば、審判や指導者が傷病者に気づいてプレーが中断しているかを確認します。道端では車などが通っていないか、また、傷病者に近づくことで自分自身に危険が及ばないか、などを確認します。

まずは傷病者と自分自身の安全を確認し、安全な場所、環境で心肺蘇生法を行える状況を作ります

このときに、傷病者が大量出血していないかも確認します。もし、大量の出血がみられる場合は、まずは止血から行いましょう。そうしないと、心臓マッサージを行った際に傷口から血が流れて、それが原因で命に危険が及びます。

止血について「止血の方法|安全に確実に身体からの出血を止めるためのプロセス」の記事で詳しく解説しています。

2)意識・反応の確認

周囲の安全が確認できたら、傷病者に近づいて意識の確認をします。傷病者が反応しやすいように「大丈夫ですか?」や「〇〇さん、〇〇さん」と肩を叩きながら声を掛けます。

肩を叩く強さは、徐々に強くしていきます。意識があれば、痛みに反応したり、目を覚ますはずです。目を覚ましたら、ゆっくり話しかけながら、どこが痛いのか?何が起きたのか?などを確認していきましょう。

強く叩きながら声をかけても反応がなければ(目を開けなければ)、「意識なし」と判断します。

また、この事故が起きたのがスポーツ現場で、受傷時に頭や首を打っていたり、頭から地面に落ちて意識がなくなった、という場合は、声を掛ける前にまず首と頭の固定をします。これは、脊髄に対する二次的な障害を防ぐためです。

首を固定する前に声を掛けてしまうと、受傷者は無意識のうちに首を動かしてしまい、受傷した部位を悪化させてしまったり、この動きが原因で脊髄を損傷してしまうこともあります。

3)119番通報とAEDの確保

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意識がない場合(目を開けない場合)は、すぐに周囲にいる方に助けを求め、119番通報をしてもらって救急車の手配をすることと、AED(Automated External Defibrillator:自動体外式除細動器)を探して持ってきてもらうことをお願いします。

このとき、「誰か119番通報とAEDの確保をお願いします!」と言うのではなく、身振りとアイコンタクトをして、「あなた119番通報お願いします!」「あなたはAEDを持ってきてください!」と、しっかり示してください

周りに人がたくさんいればいるほど、「誰かがやってくれる」とみんなが思ってしまい、なかなか行動に移してくれないことがあります。

「じゃあ119番通報くらいは自分でやれば早いじゃないか」と思う方もいるかもしれませんが、心肺蘇生法は1秒でも早く行うべきなので、自分の手は止めずに、救急車の手配は周りの方にお願いしましょう。

自分以外に心肺蘇生法ができる方がいる場合には、積極的に協力を求めることも重要です。

4)呼吸の確認

「意識なし」で、119番通報とAEDの確保をお願いしたら、次に行うのが呼吸の確認です。確認方法は「お腹に手を置いて上下に動いているかを感じる」ことと「胸とお腹の上下動があるかを目で見る」の2つを同時に行います。

お腹が上下に動いているのを手で感じたり、明らかに胸・お腹が上下に動いているのが見て分かれば「呼吸あり」なのですが、呼吸をしているように見える「死戦期呼吸(しせんきこきゅう)」と間違えないように注意が必要です。

死戦期呼吸とは、心臓が止まった直後に起こる、しゃくりあげるような異常な呼吸のこと。よって「呼吸あり」と判断するのは「普段通りの呼吸をしているときのみ」ということを覚えておきましょう。

「普通の呼吸」以外はすべて「呼吸なし」と判断します。10秒ほど確認しても呼吸をしているのかしていないのかわからない場合も「呼吸なし」と判断します。

「呼吸あり」であれば、傷病者がラクな体勢にして、様子を観察しながら救急車の到着を待ちましょう。もし「呼吸なし」であれば、心停止と判断して心臓マッサージ(=胸骨圧迫)を開始します。

5)AEDが到着したら?

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AEDが到着したら、持ってきた人がすぐに電源をいれます(容器を開くと自動的に電源がつくタイプもあったりします)。そして、なるべく心臓マッサージをしない時間を短くしたいので、できるだけ早く傷病者の服を脱がせます。ハサミなどがあれば切ってしまっても良いです。

上半身の肌を露出させたら、すぐにAEDパッドを体に貼ります。汗をかいていたり、雨で濡れていたりすると、AEDによる電気ショックが体内を流れません。よって、肌の水分はしっかり拭き取ってからパッドを貼りましょう

もし傷病者が女性の場合は、ブラジャーをつけているかと思います。もし時間がかからずにパッドを貼れるようであれば、ブラジャーの肩ひもを持ち上げてパッドを貼ります。

パッドと肌の間に金具がなければ問題はありません(パッドが金属と接していると、電気は金属に流れてしまうのでダメです)。もしキツくてパッドがうまく貼れないようだったら切ってしまって問題ないと思います。

命を救うことが最優先です。もし道端での処置であれば、周りの方に協力してもらって壁になってもらい、できるだけ人の目に触れないように配慮してあげましょう。

パッドが貼れたら(右肩付近と左脇腹付近)、あとは自動音声による指示に従ってください。ですが、ただ音声を聞いているだけではなく、心臓マッサージは続けましょう(心臓マッサージのやり方については下記されています)。

もし「電気ショックが必要です」という音声が流れたら、誰も傷病者に触れていないことを確認して(心臓マッサージもここではやめて離れる)、電気ショックボタンを押します。

以下で説明する心臓マッサージや人工呼吸よりも、なによりこのAEDをいち早く使用することが心肺蘇生法では最も大切です。

AEDの使い方についての記事を書きました。「AEDの使い方|手順を1から詳しく解説【成人・小児・乳児まとめ】」もぜひお読みください。

6)胸骨圧迫(心臓マッサージ)

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まず、胸骨圧迫って何を目的に行うのかご存知でしょうか?胸骨圧迫は、止まっている心臓を再び動かすために行うのではありません。実は僕も最初勘違いしていました。。。

胸骨圧迫は、傷病者の全身に血液を送るために行います。そもそも心臓とは全身に血液を送るポンプ機能を持った器官です。

心臓が鼓動するたびに、心臓の大動脈から血液が送り出され、全身の細胞に酸素を運び、そのときに体内の二酸化炭素を回収し、肺でまた二酸化炭素と酸素を交換し、心臓に戻ってからまた全身に酸素を供給する、というサイクルを行っています。

なので、心臓が止まってしまうと、全身に酸素が供給されなくなります。ここで最も影響を受けるのが脳です。心停止後3分ほどで脳細胞は死に始めるというデータもあるようです。

日本では救急車の平均到着時間は約8〜9分と言われているので、救急隊員が到着する前に胸骨圧迫を始めないと、傷病者が意識を取り戻したとしても、脳の後遺症を患う可能性が非常に高くなるということです。

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上のグラフは、心肺蘇生法を受けるまでの時間と生存率の関係を表しています。何も処置を受けないと、8分後には生存率が0%になってしまいます

少し残酷な言い方をすると、何も処置をしなければ、救急車が到着した時点で蘇生はほぼ不可能な状態になってしまいます。これに対し、胸骨圧迫だけでも行うことができれば、生存率が0%になるのを12分後まで引き延ばすことができます。

胸骨圧迫のやり方は、参考文献として紹介した日本赤十字社のウェブサイトに図解でわかりやすく説明してあるので、そちらをぜひ読んでいただけたらと思います。

圧迫する場所は、胸の真ん中にある「胸骨(きょうこつ)」と呼ばれる骨の下側半分。手や腕の力だけではなく、体重を使って押すことが大切です。

また、意外に忘れがちなのが、心臓マッサージは非常に疲れるということ。1分も連続して行うと、相当な疲労感を感じるほど激しい運動です。なので、ぜひ周囲に協力を求めて、数分おきに協力者と交代で行えるとベストです。

もうひとつの注意点は、圧迫するときの強さです。「CPR:More Rib Fractures, But Better Survival Rates」には、多くの人が心臓マッサージを行うときに十分な力を加えていないという研究結果が報告されています。

いざ胸骨圧迫を行うときに、「強く押しすぎたら危ないんじゃないか?」とか「ろっ骨を折ってしまうんじゃないか?」と考えてしまうのではないかと思います。しかし、十分な力で押さないと適切な処置にはなりません。

「より多くのろっ骨骨折、しかしより良い生存確率」というのがこの記事の題名です。つい先日参加した講習会で、実際に何度もCPRを経験した救命救急士の方のお話を聞くと、胸骨圧迫を適切に行うと、ほぼ100%の確率でろっ骨は折れてしまうようです。ですが、ろっ骨骨折よりも血液を全身に送るほうがはるかに大事なので、胸骨圧迫は適切な力で(=「約5センチほど胸が沈むように」と資料にはあります)、気持ち強めに圧迫するのがよいと思います。

7)気道確保・人工呼吸

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日本循環器学会より

心臓マッサージを30回行った後は、気道の確保と人工呼吸を行います。ですが、上の画像のように、最近の研究によると、「胸骨圧迫のみ」行なった場合と「胸骨圧迫+人工呼吸」を行なった場合で、蘇生率はほとんど変わらなかった(むしろ胸骨圧迫のみの方が若干蘇生率が高かった)という結果が出ています。

よって、もし人工呼吸をうまくやる自信がなかったり、人工呼吸をしたくない場合は、無理に行わなくても良いと講習で教えられました。うまく人工呼吸ができないくらいなら、胸骨圧迫を止めずに続ける方が良いようです。

もし人工呼吸を行う場合は、下顎を少し上に持ち上げて、空気の通り道を開いてやります(=気道確保)。

このときに注意することは、傷病者に頸部の損傷が疑われる場合は、下顎を上に持ち上げてしまうと首が反ってしまい、頸部の怪我を悪化させてしまう恐れがあること。その場合は、下顎は持ち上げずに口を開くだけ(=下顎挙上法)にします(もしくは人工呼吸を行わない)。

人工呼吸中を行うときは、気道を確保し続けるために片手で傷病者の顎を押さえ、顎が下がって気道が閉じないようにします。もう片方の手は傷病者の鼻をつまみ、入れた息が鼻から抜けてしまうのを防ぎます。これが結構忘れやすいです。

息を入れるときは口を大きく開け、傷病者の口を大きく覆うようにして、1秒間ほどの吹き込みを2回行います。このときに傷病者の胸の動きに注意して、息を吹き込むのと同時に胸が膨んでいるかを確認します。うまく胸が上がらない場合でも、人工呼吸は2回までにして、胸骨圧迫に戻ります。

もし心肺蘇生法を行う際に人工呼吸をしようと考えている場合は、市販されている人工呼吸用キューマスクを持ち歩くとよいと思います。携帯式のもので、バッグの端に付けておいても邪魔にならないほど小さく、中には折りたたんである人工呼吸マスクが入っています。マスクには使用方法が書いてありますし、これを使用すると傷病者の口と直接触れることもなく、感染症の心配もなくなります。

なぜ胸骨圧迫のみでも効果がある?

胸骨圧迫のみでも効果がある理由は「心停止してからの数分は、まだ血液の中に酸素が残っているため」と言われています。また、「胸骨圧迫によっても多少換気が行われるため」というのも理由として挙げられます。

ですが、心停止が長い時間続いてしまうと、人工呼吸が必要になります。よって「人工呼吸はしなくてもいい」と考えるのではなく、しっかりと講習会で正しいCPRの方法を覚える必要があります。

子供へ心肺蘇生法を行う際は必ず人工呼吸をする

子供が心停止になる原因では、窒息や溺水などの呼吸器系の問題で心停止に陥ることが多いです。窒息や溺水が原因での心停止の場合は、人工呼吸をした方が明らかに蘇生率が高いです。

以前参加した講習会では、そのようなケースではまず5回の人工呼吸を行ってから心臓マッサージに移るようにと指導を受けました。子供に対するCPRは大人に対するものと多少の違いがあるので、詳しくは上記の日本赤十字社のHPで確認してください。

以上の処置をしても意識が回復しない場合は、心臓マッサージ30回(+人工呼吸2回)のサイクルを救急隊員が到着するまで繰り返します。このサイクル中もAEDは常に使用し続けます。

除細動が必要になったら手を止めて電気ショックを流す。流し終わったら(もしくは電気ショックは必要ないと判断されたら)、再び胸骨圧迫を開始する、ということをひたすら繰り返します。

上記しましたが、胸骨圧迫を長時間続けることは非常に体力を使うので、協力者と1〜2サイクルごとに交代するなどして、傷病者に十分な力で心臓マッサージが行えるようにしてください。

まとめ

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【以下、Sakuによる執筆】心停止はいつ起こるか本当にわかりません。

僕は2年前ロンドンでトッテナムvsボルトンというサッカーの試合を観に行きました。当時ボルトンに日本人の宮市君が所属していたので、彼のプレーを観に行ったのですが、試合の途中でボルトンの選手ファブリス・ムアンバ選手が心停止で倒れました。

観客席からはムアンバ選手が倒れているのもわからず、観客はなぜ試合が止まっているのかわかりませんでした。ピッチの一か所に駆け寄るボルトンのトレーナーとドクター。それに続き主審、トッテナムのトレーナーとドクター、救急救命士と担架、両チームの選手たち。ショックを受けている選手たちの合間からボルトンのトレーナーがムアンバ選手の横に膝立ちでいるのがわかり、彼の両肩が上下しているのを確認して全てを把握できました。

ムアンバ選手はそのまま救急車で病院に搬送され、試合は中止に。観客はなんともいえないショックを受けながら家路についたことを今でも覚えています。ムアンバ選手は両チームの医療スタッフの尽力により奇跡的に命を取り留めることができましたが、心臓が止まっていた時間は78分間。まさに奇跡的な生還として話題になりました。

このとき僕は自分がトレーナーとしてその場にいたら選手を助けられたかどうか不安になりました。もちろん救命法は心得ていましたが、いつでもどこでも正確な処置をする自信はありませんでした。やはり人の命に関わることですので、こまめに復習していつでも行える心の準備をしておく必要があることを学ばせてもらった経験でした。

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