以前「ハムストリングの肉離れが起こる原因と症状|原因を知れば予防できる」の記事では、原因と症状にフォーカスして解説しました。

本記事では、ハムストリングの肉離れになってしまった後、できるだけ早く治すためにするべき応急処置とリハビリエクササイズを解説します。

早期回復・復帰のためには、適切な処置とリハビリが必須です。なんとなくの処置では、再発(再受傷)のリスクが高くなってしまいます。

ハムストリングの肉離れになってしまった方や、もう二度と肉離れしたくないという方は、ぜひ参考にしていただけたらと思います。


>>今回の参考文献はこちらです。

  1. Hamstring Strain Injuries: Recommendations for Diagnosis, Rehabilitation, and Injury Prevention
    前回に引き続きです。ハムストリングの肉離れの見分け方、リハビリの方法、そして肉離れにならないための予防法を紹介した論文です。
  2. A Comparison of 2 Rehabilitation Programs in the Treatment of Acute Hamstring Strain
    ハムストリングの肉離れに対して、2種類のリハビリプログラムを使用し、どちらのプログラムの方がスポーツに完全復帰する期間が短いか、または復帰後に再発が少なかったか、を比較した論文です。

ハムストリングス肉離れの適切な処置

ハムストリングの肉離れになってしまったら(もしくは肉離れっぽいなって思ったら)、どんな処置をすればいいのかを紹介します。

1)怪我の応急処置は「PRICE」

icing-hamstring
The42より

ハムストリングの肉離れになってすぐにやるべきは「PRICE(プライス)」です。

PRICE(プライス)のやり方については「怪我の応急処置にはPRICEがベスト|適切な処置で最短の復帰を」の記事で詳しく解説しているので、こちらをお読みください。

肉離れになって2日間〜4日間(肉離れの重症度によって違う)は、1日に最低でも2〜3回はPRICEをしましょう。

それ以上悪化させないように保護(=Protection)と安静(=Rest)をするのはもちろん、氷で冷やすこと(=Icing)で筋肉の感覚を鈍らせ、痛みを和らげるとともに、代謝を減らすことでそれ以上ひどくなることを防ぎます。

また、圧迫(=Compression)や挙上(=Elevation)をすることで、腫れを最小限に抑えることができます。

ハムストリングスの肉離れの場合、アイシングは1回約25分ほどやりましょう。「部位毎のアイシングの時間の目安|アイシングは何分やるのが効果的?」の記事では、部位別にアイシングをするべき時間をまとめてあります。

バンテージのようなもので圧迫をかけながらアイシングをすると、よりアイシングの効果がアップします。詳しくは「アイシングの氷はバンテージで巻け!断熱と圧迫で効果アップ」の記事で解説しています。

応急処置に必要な道具を揃える

スポーツを定期的にする人は、アイシングを含めたPRICEを運動後や怪我の応急処置として行うことをぜひルーティーンにしましょう。

プロ野球のピッチャーが登板後に肩や肘を冷やしているのをテレビで見たことはありませんか? プロのアスリートも、練習後はアイシングを行って身体のケアをしています。

常に100%のパフォーマンスを発揮するために、また、万が一怪我が起きてしまった時に、すぐに応急処置を行なって怪我を最小限の被害に食い止めるためにも、アイシングに使う「氷のう(アイシングバッグ)」や「バンデージ」は、選手自身でぜひ1つずつは持っておくと良いと思います。

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スポーツチームや部活動の指導者、もしくはトレーナーも、ぜひ選手たちのケアや怪我の応急処置のためにこれらの道具を複数準備しておきましょう。

もしくは「使い捨てのアイシング用ビニールバッグ(氷のうの代わり)」や「フレキシラップ(バンテージの代わり)」を購入しておくと、洗濯などの手間が省けます。

私がアメリカでチームのトレーナーとして活動していた時は、これらの道具を使用していました。

2)過度なストレッチをしないように行動

肉離れっぽいなーとか、痛めたかなーと思ったら、まずはそれ以上悪化させないようにすることが大切です。

hamstring-strain肉離れとは「急激に筋肉が収縮した結果、筋膜や筋繊維の一部が損傷すること(Wikipediaより)」なので、肉離れをした筋肉は一部の筋膜や筋繊維が切れているということになります(右図参考)。

そのため、 肉離れをしてすぐにその筋肉をストレッチすることは、その損傷を悪化させてしまう可能性があります。

肉離れになって数日(2〜3日)は、過度なストレッチは避けましょう。

症状がひどい肉離れの場合は、歩くときに普段よりも歩幅を狭くして、ハムストリングに痛みが出ないようにしましょう。

病院へ行って医者に診てもらうことも大切です。ハムストリングのひどい肉離れの場合、松葉杖を使う必要があることもあります。

3)リハビリエクササイズ

lunge-exercise

肉離れをそれ以上悪化させないことが一番重要ですが、長い間全く動かさないのも逆効果です。

肉離れになってすぐは過度なストレッチは避けるべき、と上記しましたが、保護・休息をさせすぎると、怪我した部分が固まってしまったり、ハムストリングの筋力が落ちすぎてしまうので、再発しやすくなってしまいます。

よって、ある程度痛みがひいてきたら、「痛みのない範囲」で軽い運動(=リハビリエクササイズ)をして、ハムストリングに負荷を少しずつかけていくことが大切です。

ハムストリングの肉離れリハビリプログラム

dynamic-stretch

さて、参考にした論文の1つは、2種類のハムストリングの肉離れ後のリハビリプログラムの効果を比較しています。

1つは「ストレッチとレジスタンストレーニング」に焦点を当てたプログラム。もう1つは「体幹とアジリティトレーニング」に焦点を当てたもの。

結果は、ストレッチとレジスタンストレーニングを中心に行ったグループの半分以上の選手(54.5%)が、競技復帰から16日以内に再びハムストリングを傷めてしまったということ。

対照的に、体幹とアジリティトレーニングを中心に行ったグループの選手は、1人もハムストリングを再び傷めることはなかったということです。

また、ハムストリングの肉離れをしてから競技に復帰するまでにかかった日数も、ストレッチ&レジスタンストレーニングのグループは平均で37.4日かかったのに対し、体幹&アジリティグループは22.2日でした。

つまり結論は、ハムストリングの肉離れのリハビリプログラムは「体幹トレーニング」と「アジリティトレーニング」を中心にするのが良いということ。

ではここから、参考文献を参考に、僕がいいなと思った体幹やアジリティのエクササイズを、Phase 1とPhase 2に分けて紹介します。

ハムストリング肉離れのリハビリ【Phase 1】

痛みがある程度引いたら、以下で紹介するPhase 1のリハビリプログラムを始めましょう。

リハビリの開始直後は必ず「痛みのない範囲」で「過度なストレッチをかけない」ようにして行いましょう。

歩幅を短くすることなく普通に歩くことができて、かつ軽いジョギングが痛みなくできるようになったら、Phase 2に進みましょう。

A)エアロバイク(5〜10分)

aerobike

サドルの高さを調整することで、過度なハムストリングのストレッチを避けることができます。

ハムストリングを動かすことが目的なので、負荷はほぼゼロでいいです。

B)キャリオカステップ

スピードはあまり出す必要はありません。痛みが出ない程度に、骨盤からしっかり動かしましょう。

ハムストリングの肉離れをしてすぐにキャリオカみたいな走るような動きをして大丈夫なのか?と思う人もいると思いますが、ハムストリングは膝を曲げたり、股関節をお尻側に引くような矢状面の動きに働く筋肉です。

キャリオカのような横の動き(前額面)では、ハムストリングの長さはあまり変わらないので、過度なストレッチをさせることなく、ハムストリングに刺激を与えることができます(もちろん、痛みが出ない範囲でやることが大切。痛みが出る場合はやめましょう)。

C)片足バランス(目を開けて/目を閉じて)

(左写真:Hungry&Fitより 右写真:fitbieより)

ハムストリングを痛めたほうの足で片足で立って、バランスをとります。

バランスをとる際、骨盤が前傾(=腰がそる)したり後傾(=腰が丸くなる)しないように、ニュートラルを保ちましょう。

最初は目を開けて行い、できるようになったら目を閉じたり、少しアンバランスなものの上に立ってバランスをとります。

右写真で使っているトレーニングツールは「ボスボール (BOSUバランストレーナー)」と言います。このツールを使った様々なトレーニングを「ボスボール ( BOSUバランストレーナー)おすすめトレーニング8選」という記事で紹介しています。ぜひこちらもご覧ください。

D)フロントプランク

前腕とつま先のみで体を支えます。腰が反ったり背中が丸まったりすることなく真っ直ぐを保ちましょう。

1セット20〜30秒を3〜4セットやります。フロントプランクが簡単にできるようになったら、体真っ直ぐを保ちながら片方の腕をあげましょう(=ワンアームリフト · フロントプランク)。

E)サイド · ローテーションプランク

腕立て伏せのポジションから片腕を上げ、その手を天井の方に持っていきます(=スタートポジション)。

ここから、上半身を地面側に回転させ、上にあげた手を、体を支えている腕側の脇の下に通し、またスタートポジションに戻ります。

ハムストリング肉離れリハビリ【Phase 2】

痛みなく普通に歩けるようになり、軽いジョギングもできるようになったら、Phase 2に進みましょう。

Phase 2からは、エキセントリック収縮(=筋肉をストレッチさせながら力を発揮する)を使って、Phase 1よりもハムストリングに負荷をかけていきます。

上で紹介したエクササイズも、痛みが出ない範囲でバイクの負荷を徐々に上げ、ジョギングのスピードもあげていきます。キャリオカやサイドシャッフルなどの横の動きも、スピードを徐々にあげていきましょう。

F)シングルレッグRDL

RDLとは、Romanian Dead Liftの略。片足(ハムストリングの肉離れをした脚)で立ち、バランスをとりながら股関節を曲げて、徐々に上半身を前に倒していきます。

腰が反ったり猫背になったりすることなく、カラダを真っ直ぐに保ちながら、背中が地面と平行になるところまで股関節を曲げ、元の位置に戻ります。

上の写真では青いパッド(バランスがとりづらいパッド)に立ち、左手にはウエイト(=ケトルベル)を持っていますが、最初は硬い地面の上で、ウエイトもなしでやりましょう。

痛みなく簡単にできるようになったら、写真のようにウエイトを持ったりパッドに立ってやってみましょう。

G)ヒップリフト・ウォーク

仰向けになり、股関節45°、膝関節90°に曲げます(膝を立てる)。つま先も上に持ち上げます(=足関節背屈)。そこから骨盤を上に持ち上げます(=股関節の伸展)。

少しずつ膝を伸ばしながら、足の方向にかかとで歩きます。2ステップずつくらいやったら、元の位置にもどってきます。

この間ずっと骨盤は上に持ち上げたまま。10回を2〜3セットするといいでしょう。

H)ボクサーシャッフル(Boxer Shuffle)

横に進みながら、足を交互に前後させます。同時に、股関節も回旋(ツイストのような感じ)させます。

軽くジャンプしているので、強度は高めになります。痛みが出るようであればやめましょう。

I)早いスピードでの動きを除いた、競技特有の練習

football-start

早いスピードの動きをせずに、自分の競技の練習に少しずつ戻っていきます。

早いスピードの動きは、ハムストリングの肉離れを起こしやすいメカニズムの1つ。なので、スピードはくれぐれも少しずつあげていくこと。もちろん痛みが出ない範囲でやっていきます。

J)ボスボール・ランジ(+ショルダープレス)

上記していますが、写真にうつっている青い半球状のものをボスボールと言います。

ボスボールから1メートルくらい離れたところに立ち、そこからボスボールの中心に足をのせてランジをします。

後ろ脚の膝が地面にギリギリつかないところまで膝を曲げ、また元に立っていた場所に足を引いて 、スタートポジションに戻ります。

ボスボールランジができるようになったら、片手にダンベルやケトルベルを持って、ランジと同時にショルダープレス(上写真右)を行いましょう。さらに強度が高くなります。

K)バランスボール・ヒップリフト&レッグカール

仰向けの状態で、バランスボールの上に両足をのせます。その状態から骨盤を上にあげてヒップリフト。

その骨盤の位置を保ったまま、膝を曲げてバランスボールを自分側にゆっくり転がしてきます。

その後、骨盤はまだ高い位置を保ちながら、膝を伸ばしてバランスボールを元あった位置までゆっくり転がし、骨盤を下におろします。

このエクササイズはかなり強度が高いため、競技復帰に近づいてから行いましょう。 

練習への完全復帰の目安

練習への完全復帰は、必ず医師やトレーナーなどの専門家に聞いてから行うのが前提です。

目安として、以下のものすべてがクリアされたらにしましょう(トレーナー向けです)。

  • 膝屈曲(15°と90°)のMMT(=マニュアルマッスルテスト)で5/5
  • ハムストリング全体への触診による痛みがない
  • ダッシュやジャンプが痛みなくできる

他にもいろいろなテストはありますが、最低限これらをクリアしてから練習に復帰させましょう。

まとめ

肉離れの再発が一番起きやすいのは競技復帰してから「2週間後」です

かといって、リハビリに時間をかければかけるほど再発の可能性が低いかといえば、そうでもありません。

参考文献では、肉離れを再発した選手と再発をしなかった選手の、競技復帰にかかった日数を比べています。

結果は、再発をした選手は35.2日。再発しなかった選手は25.4日。むしろ再発をした選手の方がリハビリに時間をかけていた、という結果でした。

競技復帰までの時間が重要なわけではなく、痛みと相談しながら処置をしつつ、ハムストリングに早い段階で刺激・負荷をかけ、段階をしっかりと踏んで徐々に強度とスピードを上げていくことが大切です。

特にハムストリングに強い負荷がかかるダッシュやジャンプは、Phase 2のリハビリエクササイズとして紹介したものすべてが痛みなくできるようになってから、徐々に始めていきましょう。

また、ハムストリング肉離れの再発を防ぐために、競技復帰したあともリハビリトレーニングは続けるようにしましょう。

参考になれば幸いです。

2 Comments

  1.  スズキ

    すごく参考になりました。
    今後の投稿も期待します

    • ATSUSHI

      スズキさん

      コメントありがとうございます!
      最近少しバタバタしていて更新できていませんが、定期的に少しずつ投稿していこうと思っています!
      今後もよろしくお願いします!