みなさんは、25歳の人と65歳の人が同じ筋トレ・エクササイズをしたら、同じように筋肉はつき、動きもよくなり、体力もつくと思いますか?

もちろん答えは「イエス」です(もちろん重量や回数などは、その人に合ったものにするのが大前提です)。僕がこの記事で言いたいこと。それは、いくら年をとったとしても、筋力トレーニングをすることによって体はしっかり変化する(筋肉がつく・パワーがつく・体が柔らかくなる・動きがよくなる 、など)し、それは若い人と比べても変わらない、ということ。

「高齢者と筋トレ」の関係について、いくつか知っておくべきことを紹介します。


>>参考文献はこちらです。

sarcopenia-articleMuscle Changes in Aging: Understanding Sarcopenia
加齢にともなって起きる筋肉の変化について(Sarcopenia=筋肉減少症)の論文です。

 

「Age- and Sex-Related Differences and Their Implications for Resistance Exercises」
僕が2年ほど前にPTクリニックで実習をしているとき、そこのPT(理学療法士)の人が「コレ読んできてー」と、宿題として読んだ論文です。部屋をくまなく探したんですけどなくしてしまったらしく、原文を添付できずスミマセン。。。

高齢者でも筋トレをすれば筋肉はつく

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オリンピックに出るようなアスリートでさえ、「30歳」を過ぎると筋力の低下を避けることができなくなります。

ウエイトリフティングのオリンピック選手が、毎年どれくらいのパフォーマンスをすることができるか(=どれくらいの重量を挙げることができるか)という研究の結果をみてみると、30歳を過ぎた頃から、毎年約1〜1.5%くらいの減少が見られ、それは70歳まで続いた、ということです。

別の研究では、12年間かけて、65〜77歳の患者の太ももの周径囲が測定されました。結果としては、12年で約15%の筋肉の量が減少しました。つまり、加齢による筋力の低下はあるし、筋肉の量の減少もある、これは避けられない事実であるということです。

ですが、「87〜96歳の男女が継続的にレジスタンストレーニング(=筋トレ)を行ったところ、8週間後に筋力の増加が見られた」という研究結果が報告されています。つまり、高齢者でも筋トレをすれば、ちゃんと効果が出るということ。高齢者の筋力の増加は、歩くスピードの増加・階段を上がるための筋力やバランス能力の向上につながると言われています。

筋肉には、可塑性(=かそせい。別の言い方では「適応性」とも言います)があります。これは、筋肉に一定以上の負荷をかけると、筋肉はその負荷に耐えられるように、筋肉が太くなったり強くなったりするという適応能力のこと。そしてこれは年齢に関係なく、一生続くものである、という研究結果が出ています。

高齢者による筋トレは骨も強くする

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加齢とともに、骨はゆっくりと、しかし着実にもろくなっていきます。これは、体内のホルモンバランスや栄養面、若干の遺伝的な要素もからんできますが、骨がもろくなっていく一つの原因に「運動不足」があげられます。

運動をしない。外にあまり出ない。一日中座りっぱなし。このような生活は「骨に刺激を与えない」生活です。刺激が与えられない骨は、どんどん弱くなり、ちょっとした刺激ですぐ骨折してしまうようなもろい骨になってしまいます。

そして、骨に刺激を与える良い方法が、運動・筋トレ(レジスタンストレーニング)なのです。

ある研究では、定期的な筋トレは、骨密度を維持(もしくは増加)させるため、加齢による骨の弱化を抑えることができる、と示されています。ここで大事なのが「定期的に」行うということ。トレーニングをしない時期が長く続いてしまうと、せっかく強くなった骨がまた元に戻ってしまいますからね。

では具体的に「定期的」って、どれくらいの頻度でやればいいのか。高齢者は、若い人よりも筋肉の回復スピードが遅いです。参考論文には「1週間に2日、約1時間」のトレーニングがいいでしょう、となっています。

それでは、どのようなトレーニングをしていくといいか、をここから。基本的には、高齢者はエアロビックエクササイズ(有酸素運動)とレジスタンスエクササイズが効果的であると言われています。

高齢者が筋トレをするべき理由

加齢による筋力の減少は、速筋繊維(=Type-2。短距離を走るときに使われる。爆発的な力を発揮するがすぐ疲れてしまう)がとても早く進行し、遅筋繊維(=Type-1。長距離を走るときに使われる。力は強くはないけれどあまり疲れない)はゆっくり減少していきます。そのため、筋トレを定期的に行って「速筋線維」を鍛えていく方が、生活面のことを考えるとより重要だろうと言われています。

基本的に、どんな筋トレを、どれくらいの重さで、何回やればいいのか、を決める方法は、高齢者でもアスリートでも変わりません。下のような順に「回数」と「重さ」を決めていきましょう。

  1. 軽い強度・重さで、少ない回数
  2. 軽い強度・重さで、回数増やす
  3. 徐々に強度を高めて(重さを増やして)いく
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San Francisco Sport and Spine Physical Therapyより

たとえば「いすに座った状態から立ち上がり、またいすに座る(いすを使ったスクワット)」を15回 ×1セットからはじめて、徐々に15回 ×2〜3セットと回数を増やしたり、強度をあげるためにいすを使わずにスクワットをする。慣れてきたら両手にダンベルや500mlのペットボトルなどを持ってスクワットをすれば、更に強度が上がりますね。

また、トレーニングは大きい主要な筋肉を中心に鍛えていきましょう。大きい筋肉とは、大腿四頭筋(前もも)・ハムストリング(太もも後ろ側)・大殿筋(お尻)・大胸筋(胸)・広背筋(背中)・三角筋(肩)・上腕二頭筋(二の腕)などが挙げられます。これらの大きい主要な筋肉を鍛えることで「階段の上り下り」「モノを運ぶ」などの日常生活での動きがラクになるはずです。

更に、高齢者のエクササイズで大切にしたいのがフォームの正確さ

正しいフォームでトレーニングを行うことは、1つ1つのトレーニングをより効果的にするだけでなく、なによりケガの予防につながります。高齢者は全体的な筋力が弱くなっているので、無理な動きをすると、他の筋肉で補うことができないので、すぐに痛み・ケガにつながってしまいます。

基本的なレジスタンストレーニングをマスターしたら、ダンベルを使ったトレーニングや、メディシンボールやバランスボールなどを使ったトレーニング、バランストレーニングを加えていくのもいいですね。

スクワットの正しいフォームについて「正しいスクワットのやり方を徹底分析|確認すべき12のポイント」で詳しく解説しています。ぜひこちらも参考にしてみてください。

高齢者におすすめの筋トレ5選

それでは、私がおすすめする、高齢者の方が家でも簡単に安全にできる筋トレを5つ紹介します。

1)スクワット

上記しましたが、スクワットはどこでもできる下半身を鍛える素晴らしい筋トレです。ゆっくり、膝に痛みが出ない範囲で行いましょう。10〜15回を1セット。余裕がある人は、1分ほど休憩して2〜3セット行います。

  1. いすの前半分くらいに座り、背すじを伸ばす(両足はしっかりと地面につける)
  2. 足は肩幅に開く。つま先はまっすぐ前を向ける
  3. ゆっくりと立ち上がる
  4. ゆっくりと座る

2)ワイドスクワット

こちらもスクワットですが、少し足を開いた状態で行うことで、内ももやお尻にしっかりと効かせることができます。回数はスクワットと同じで10〜15回を1セット。余裕があれば2〜3セット(セット間の休憩は1分程度)行いましょう。

  1. 足を肩幅の2倍くらいに左右に開く
  2. つま先は30〜45°くらい外側に開く(開きすぎは筋トレの効果が薄れます)
  3. 膝をしっかりと外側に開きながら、お尻を真下に下げていく(内ももに張り・ストレッチを感じながら行う)
  4. 胸はしっかり張って、前を見る(下を見ない)

3)グルーツブリッジ

お尻、もも裏(ハムストリング)に効くとても良い筋トレです。これも上2つと同じく10〜15回を1セット。余裕があれば2〜3セット行いましょう。

  1. 仰向けになって、膝を曲げて立てる
  2. 足は肩幅に広げる。つま先はやや外側を向ける。両手は体の横に置く
  3. 腰を反らないように注意しながら、かかとで地面を押して、お尻を上に上げる
  4. 上げた状態で1秒ほど止めて、お尻をキュッとしめる
  5. ゆっくりお尻を地面に下ろす

4)ディップス

二の腕や背中を鍛える筋トレです。椅子やテーブル、ベンチ、ベッドなどがあれば行えます。8〜10回を1セット。余裕があれば2〜3セット(休憩は1分程度)行いましょう。

  1. 椅子などに座って、すぐ横に両手をつく(椅子のヘリなどを掴んでも良い)
  2. 両手で体を支えながら、前へ移動してお尻を椅子から浮かせる
  3. ゆっくり肘を曲げて、お尻を地面に近づけていく
  4. 体が猫背にならないように、胸を張って前を見る
  5. 体を下げられるところまで下げたら、ゆっくり持ち上げる

5)ピラーブリッジ

最後は上半身と体幹の筋トレです。歳を取っても良い姿勢をキープするための筋力をつけることができます。15〜30秒を1セット。余裕があれば2〜3セットです。

  1. 両ひじを肩幅について、手のひらは地面につける
  2. つま先も肩幅に開き、両前腕と両つま先で体を持ち上げる
  3. 頭からかかとまでをまっすぐにした状態でキープ
  4. 疲れてきてお尻が地面に近づく(=腰が反る)ことのないように注意する

まとめ

高齢者の方の中には、「筋トレをしたってもう体はうまく動くようにならない」とか「もう重い物は運べない」と、諦めている方がいます。また、「転ぶのが怖いから外は歩かない」とか「歩くのが遅いからみんなに迷惑をかける」などという思いから、本当は外に出て運動したいって思ってるけど、自らやめてしまっている方もいます。

僕らのような、運動・スポーツを指導したり、体のことをよく知る人たちが「年をとったって体は成長するし進化もするんだ!」ということをどんどん広めていくべきだと思います。筋トレは家でも簡単にできるので、おすすめですよ。

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