Sickle Cell Trait〜鎌状赤血球形質とは?〜

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アメリカの大学スポーツ界では、2000年を過ぎた頃から話題になってきたこのSickle Cell Trait(鎌状赤血球形質)。なぜ話題になったかというと、1974〜2010年の間に、このSickle Cell Traitを持つ大学のアメフト選手をはじめ、バスケ/クロスカントリー/ボクシングなどの約15人の選手が、死亡してしまったから。

NATAによるレビューによれば「外傷性ではないスポーツ中の突然死」の原因トップ4が、

1)心血管系

2)熱射病

3)鎌状赤血球形質による急性横紋筋融解

4)ぜんそく

と報告されています。

日本人にはあまりなじみのないものだと思いますが、今回は私が理解を深めるためのノートとして、「Sickle Cell Trait」についてまとめます。

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参考文献はこちら。

scsho

Consensus Statement: Sickle Cell Trait and the Athlete

NATAが発表したSickle Cell TraitについてのConsensus Statementです。

 

scsho

Sickle Cell Trait: A Review and Recommendations for Training

NSCA発行のStrength and Conditioning Journalより、Sickle Cell Traitについてのレビューです(フリーでダウンロードできません。。。)。

 

Sickle Cell Traitとは?

Sickle Cell Trait(長いので、ここからはSCTと略します)は、遺伝性のものと言われています。アフリカ系アメリカ人の約8%(100人に8人)は、このSCTを持っていると言われています。

遺伝性ということは、両親のどちらかがSCTを持っている場合、その子供もSCTになる可能性がある、ということ。もう少し詳しく説明するために、下の図をご覧ください。

左はPaediatric Society of Ghana, 右はColorado Sickle Cell Centerより

左の図は、両親がともに(母親も父親も)SCTの場合の、子供への遺伝の可能性をあらわした図です。普通の赤血球(A)と鎌状の赤血球(S)の遺伝子が組み合わさることで、SCT(=AS)となります。ちなみに、鎌状と鎌状が組み合わさってしまうと(=SS)、それはSickle Cell Anemia(=SCA。鎌状赤血球貧血)となります。

右の図は、赤血球のタイプの違いをあらわしたもの。AAの場合、鎌状の赤血球になる遺伝子は含まれていません。赤血球がASのタイプの場合、いくつかの赤血球には鎌状の赤血球に「変化」する遺伝子が含まれているため、運動などにより鎌状に変化してしまいます。SSの場合は、はじめから赤血球は鎌状の形をしています(=「変化」ではない)。

 

SCTとSCAの違いはなにか?

SCTは、普段何もしてないときは、赤血球は普通の形をしているので無害。運動などをするとその普通の赤血球が鎌状に変化してしまい、様々な症状を引き起こしてしまいます。

一方SCAは、日常生活でも健康に関する問題が生じる、いわゆる「病気」。このSCAはSickle Cell Diseaseと呼ばれることもあります。

ただ、SCTがSCAに変化することはないと言われています。

 

鎌状赤血球を引き起こす原因

強度の高い運動

鎌状3

Wikipediaより

強度の高い練習/トレーニングをすると、体内の酸素レベルが減少します。その酸素レベルの減少が、普通の赤血球を鎌状(三日月のような形)に変形させる原因となります。

なぜ赤血球が三日月型になるのが、体にとってよくないのか。それは、その三日月状になった赤血球が、血管にくっついて血流を制限したり、最悪の場合は血流をブロックしてしまうからです。血流がブロックされてしまえば、酸素がその先へ供給されなくなってしまうので、筋肉や臓器が働かなくなってしまいます。

 

右の図が普通の赤血球と鎌状の赤血球が血管を通る時をあらわした図です(英語ですが)。Bをみると、三日月状になった赤血球が、血管で詰まってしまっている様子がわかります。

普通の赤血球が鎌状に変化してしまうのは、アスリートが、より速く走ったり、より一生懸命やればやるほど、危険性が高くなります。

 

鎌状赤血球による突然死が起きてしまったほとんどのケースは、800〜1600mを1回全力で走ったときや、非常に運動強度の高いトレーニングを2〜3分やったとき、と報告されています。

短い距離や時間だからこそ、アスリートは自分の限界以上まで達してしまい、死まで至ってしまいます。

 

暑さ

暑い環境下での練習/トレーニングにより引き起こされた熱中症も、赤血球を鎌状に変化させる原因の1つ。熱中症になる大きな原因の1つである「脱水」は、体内の血液量が減るため、血液によって運ばれる酸素の量も減ってしまいます。

他、「ぜんそく」や「高地トレーニング(標高の高い場所での練習)」も、体内の酸素量の減少が起きるため、SCTを持つアスリートにとっては危険です。

 

SCTの症状

SCTの症状は以下のようなものがあります。以下のような症状が出たら、すぐに運動をストップしましょう。

 

脚がつっているような感覚

よく熱けいれんと勘違いされることが多いですが、SCTによる「つり」は、水分や電解質の損失によるものではなく、血流が制限されて起きるものです。

筋肉がつっている状態の場合は、触るとカチカチにかたまっていたり、見た目だけでもその筋肉が硬直しているのがわかることが多いですが、SCTによるものは、見た目は普通で、触ってもカチカチではないのに、アスリートは「だるい痛み」や「筋力の低下」を訴えます。

もしSCTを持つアスリートが脚のけいれん/つりを訴えた場合は、鎌状赤血球によるものだと考えてケアをするべきでしょう。

 

ぜんそくのような症状

体内の酸素量が不足すると、赤血球は鎌状に変化してしまいます。呼吸がみだれているうちは、無理に練習に戻るのは避けましょう。時間をとり、呼吸が正常に戻ってからにしましょう。

 

SCTとの付き合い方

 

ダッシュやインターバルなどは極力何本もやらない

数本なら大丈夫ですが、何本も連続でやることは極力避けましょう。また、やるとすれば休憩時間を2〜3倍に増やし、回復の時間をとりましょう。

基本的に無理さえせず、休憩時間も十分にとりさえすれば、SCTを持っていたとしても、運動することは全く問題ありません。

 

もしSCTを持つアスリートが、普段やらないようなトレーニングをかなり高い強度で行った場合、急性横紋筋融解を引き起こす可能性があります。これは死にも至ってしまう可能性のあるものです。

特にシーズン前は、SCTを持つアスリートはゆっくりコンディションをあげていきましょう。突運動強度を上げることは危険です(夏は特に)。

 

水分補給はしっかり

脱水は血液量を減らし、筋肉や臓器への酸素の供給も減らします。また、脱水はパフォーマンスの低下も引き起こします。夏は特に、運動中の水分の補給は徹底しましょう。

 

>>水分補給についての詳しい記事はこちらで。

 

早めの対処

運動中に起きるぜんそく、体調不良、下肢のけいれんやつりなどは、すべてSCTによる症状の可能性があります。指導者やトレーナーは常に、SCTを持つアスリートの体調の変化をチェックし、おかしいなと思ったらすぐにケアしましょう。

 

もし倒れてしまったらどうするか、を考えておく

鎌状赤血球化が起きてしまったら、それは命に関わること。起きてしまった時の計画を事前にしっかりたてておきましょう。

まずはバイタルサイン(気道確保、呼吸、脈)のチェック。他、体温や血圧、心拍数などもチェックしましょう。1つでも異常があればすぐに救急車を呼びましょう。AEDの用意も忘れずに。

もしその場が暑ければ、涼しい場所に移動させ、体温が高ければ体を冷やしましょう。大量の氷や氷で冷やしたタオル、氷で冷やした水風呂は、熱射病の応急処置でも使うので、夏の練習では必ず用意しておきましょう。水分補給も必要であればしましょう。

救急隊がついたら、その選手はSCTを持っていることを伝えましょう。

 

運動/練習への復帰は、必ず医者の許可が必要です。たとえ倒れた選手の気分が良くても、倒れた選手は必ず病院へ行って、検査をしてもらいましょう。

 

SCTを持つアスリートを把握しておく

指導者やトレーナーは、事前にSCTを持つアスリートを把握し、運動強度の高い練習を行う場合は、休憩時間を他の選手よりも多くとらせるなどの処置をとり、予防をしましょう。

 

 

運動を定期的に行っている人は、普段まったく運動をしない人よりも、運動中にSCTの症状は起こりにくいと言われています。

なので、SCTを持っているから、怖いから運動はしない、というふうには考えなくても大丈夫です。しっかり休憩をとって、自分のペースで運動をすれば、むしろ運動はプラスです。しっかり理解した上で、安全に行いましょう。

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