すでにプロで活躍されているトレーナーの方にとっては当たり前のことかもしれませんが、男性で、学生トレーナーとして部活動やスポーツチームをサポートし始めたばかりの人や、運動指導者として働き始めたばかりの人などは、女性の「生理」について、あまり勉強する機会がなかった、いまいちよくわからない、という人は多いのではないでしょうか。

女性をサポートする立場にあったり、女性に運動を指導する立場にある人は、ほぼ1ヶ月に1回は訪れる生理について最低限知っておくべきです。生理によって女性の体調は変化します。健康管理をする上で、とても重要な知識となります。

「運動指導者・トレーナー」として、最低限知っておくべき「生理」についての基本的な知識をお伝えします。


>>今回の参考にした文献/サイトはこちら。

health-management健康管理とスポーツ医学|公認アスレティックトレーナー専門科目テキストワークブック
日本体育協会公認アスレティックトレーナーのための教科書の1つです。この教科書より「女性のスポーツ医学」の項を参考にしました。

sports-medicine-in-women女性スポーツの医学
女性のカラダについての基礎知識がまとめられた本です。

 

unicharm生理(月経)のこと、きちんと知っておきたい!|生理用品のソフィ
月経についてとてもわかりやすく説明されている「ソフィ・ユニチャーム」のサイトです。

 

「生理」の基礎知識

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がん情報サイトより

まずは、生理がどう始まっていくのかというところから。

7〜8歳ころ(小学1〜2年生)になると、卵巣から女性ホルモンの分泌が始まり、子宮が発達していきます。女性ホルモンが分泌されはじめると、胸やお尻に皮下脂肪がつき始め、ふっくらとした体つきになっていきます(=いわゆる「女性らしい体」になっていく)。

そして、女性ホルモンが十分に分泌されたころに、初経(=生まれて初めての生理。初潮とも言います) をむかえます(10〜15歳ころ)。

ちなみに、卵巣と子宮の言葉の説明は以下の通りです。

  • 卵巣:卵子を作り出す器官。オスが精子を作る精巣と合わせて生殖巣と呼ばれる
  • 子宮:妊娠をしたとき、体内で子供を育てるときに胎児の入れ物になる器官

アスリートと生理の関係

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初経をむかえるためには、体脂肪17%以上が必要という研究があります。そのため、小学生〜中学生から高いレベルでスポーツをしている子は、体脂肪量が少なく、初経をむかえるのが遅れる傾向があります。

初経が遅れると、それにともなって生理の周期が安定するのも遅れてしまうため、高校〜大学生のアスリートの中には、月経不順(=生理の周期が一定ではないこと) となってしまう人が多いです。ちなみに、生理の周期が安定するのは、初経から約3年と言われています。それまでは、生理の周期や血の量は不安定です。

一流のスポーツ選手におこなった生理についての調査結果でも、初経がきた年齢は、一般女性と比べると遅かったという結果が出ています。つまり、12歳未満の段階で、激しいトレーニングや厳しいダイエット(体重の減少・維持)を行うことは、初経がくるために必要な体重や体脂肪の増加を制限し、初経を遅らせてしまうことになります。

12歳以下の女の子を指導する学校の先生やクラブの監督 ⋅ コーチは、特に健康管理に気を配る必要があります。

生理の周期

生理が始まった日から、次の生理が始まる前日までを生理周期(=月経周期)といいます。この生理周期は「25〜38日」が正常です。実際の生理の期間は、正常だと「3〜7日間」です。1〜2日間で終わってしまったり、8日以上続く場合は、生理不順の可能性があります。

生理の周期には、4つの段階があります。

1)卵胞期【増殖期】

卵胞刺激ホルモンの活動によって、卵巣の中にある卵胞のひとつが成長をはじめます。その卵胞が成長するにつれて、卵胞ホルモンがどんどん分泌されていき、子宮内膜が少しずつ厚くなっていきます。

2)排卵期

abdominal-pain卵胞ホルモンの分泌がピークになると、黄体化ホルモンが分泌されはじめ、成長した卵胞から卵子が飛び出します。このことを「排卵」と言います。排卵の日を排卵日といいますが、排卵日をはさんだ2〜3日が、もっとも「おりもの」の多い期間で、排卵期と呼びます。排卵日から14日前後で、生理が起こります。

人によっては、この排卵期に痛みが発生する(=排卵痛)ことがあります。痛みの原因としては、卵胞から卵子が飛び出たときに傷ができてしまって出血したり、大きく成長した卵胞がお腹を圧迫して痛みになることがあります。痛みには個人差があり、我慢できるくらいの痛みであれば問題ないですが、痛みが強い場合は、婦人科に行って治療を受けましょう。

排卵痛は個人差が大きく、全然平気な人もいれば、痛みが強い人もいるので、指導者やトレーナーは、そのことをしっかり理解をしてあげましょう。

3)分泌期【黄体期】

卵子が飛び出したあとの卵胞が黄体という組織になり、黄体ホルモンが分泌されます。受精卵が着床する準備として、子宮内膜はやわらかくなります。

生理の日が近づいてくると(この分泌期中。生理が始まる3〜10日前くらい)、月経前症候群(PMS = Pre Menstrual Syndrome)により、身体的・精神的に様々な症状があらわれることがあります。特に若い人ほど、生理前に症状があらわれやすいです。この時期は精神的に不安定な時期なので、指導者やトレーナーはしっかりケアや気分転換をしてあげましょう。

月経前症候群の主な症状

  • 頭痛/下腹部痛
  • 肩こり
  • イライラ
  • ニキビ/肌荒れ
  • 眠気/不眠
  • 胸の痛み/張り
  • 過食(食べ過ぎ)

日常生活に支障が出るほどの痛みがあったり、症状がひどい場合は、我慢せずに、婦人科に行って相談しましょう。必要であれば薬を処方してもらえます。

また、以下に挙げた特徴をもつ選手や学生は月経前症候群になりやすいです。指導者やトレーナーの人は、頭の片隅においておくといいかもしれませんね。

  1. タバコを吸う人・お酒やコーヒーをたくさん飲む人
  2. 几帳面・完璧主義・負けず嫌いの人
  3. 神経質・感情を表にあまり出さない・我慢する人

4)月経期

排卵した卵子と精子が結合して受精卵となり、子宮内膜に着床すれば、妊娠が成立します。子宮内膜に着床しなかった場合は、黄体ホルモンと卵胞ホルモンの分泌が徐々に減少し、いらなくなった子宮内膜がはがれ落ちて、血液とともに体外へ排出されます。不必要になった子宮内膜と血液が体外に放出されることを、生理(または月経)と言います。

上で紹介した月経前症候群と同じような症状が、月経中も起こることがあります。

  • 頭痛
  • 下腹部痛/腰痛
  • 吐き気
  • 下痢
  • 肌荒れ/むくみ
  • 眠気
  • イライラ/憂うつ感

生理中はどうすればいい?

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それでは、生理中はどのように過ごせば良いのでしょうか?

1)清潔に保つ

生理のときに使われるナプキンやタンポンは、たとえ血の量が少なくてもこまめにとりかえましょう(3〜4時間おき)。長時間そのままにしておくと、湿気がこもってカビが発生してしまう可能性があります。

また、シャワーを毎日あびて、経血をキレイに洗い流しましょう。お風呂に入ることで血行がよくなって、月経中の症状がやわらぐこともあります。

2)栄養(特に鉄分)をしっかりとる

生理中は身体から出血をし続けているため、立ちくらみや貧血になりやすいです。鉄分を多く含む食材を意識してとるように心がけましょう。スポーツをしている子供をもつ親御さんは、生理中は特に意識して、鉄分を多く含む食材を食卓にとりいれるようにしましょう。

3)性行為は控える

生理中は、子宮頸部(膣と子宮をつなぐ部分)がひろがっているため、子宮内に細菌やウイルスが入りやすくなっています。性行為をするのは控えましょう。

4)無理のない範囲なら運動することはOK

生理中であったとしても、元気であればいつも通りスポーツをしても大丈夫です。腹痛や貧血などで体調があまりよくない日は、無理をせずに休みましょう。その日その日で、自分の体と相談しながらスポーツは行いましょう。

5)メンタルをリラックスさせる

月経前症候群や生理中の症状は、精神的なものが大きく関わっているので、自分のリラックス法などがあると、症状がやわらぐ可能性があります。アロマテラピー・ヨガ・ストレッチ・マッサージ・散歩など、自分が気分転換できるものを見つけられるといいですね。

運動性無月経とは?

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高いレベルでスポーツをする女性アスリートの中で悩まされることが多いのが「運動性無月経」です。繰り返される激しいトレーニングにより、生理不順になったり、生理がこなくなることがあります。

運動性無月経の大きな原因と考えられているのが、以下の2つです。

1)精神的・身体的ストレス

進学や就職、引越しなどの環境の変化や、疲れ ⋅ 過労により、生理異常が起こることが知られています。そのため、アスリートは日常的な激しいトレーニングが精神的 ⋅ 身体的なストレスとなり、生理異常になってしまうことがあります。

参考文献からの調査によれば、練習時間の増加や、陸上選手における1週間で走る距離の増加にともなって、生理が遅れたり、こなくなってしまうことが多くなる、という結果が出ています。

2)体重・体脂肪の減少

体脂肪の過度な減少が、生理異常につながることもわかっています。研究によれば、体脂肪が低ければ低いほど生理の周期が乱れる確率が高く、体脂肪が増えるにつれて、その確率は減っていたという報告があります。

まとめ

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ある調査結果では、体脂肪率10%以下の女性アスリートでは、ほぼ全員が生理異常である、という報告をしたとのことです。「見た目」が重要視されたり、「体重」がパフォーマンスに大きく影響するようなスポーツ(体操、新体操、フィギュアスケート、バレエ、陸上長距離など)の指導者は、特に気をつけないといけません。

性機能と体脂肪率の関係としては、初経のためには17%以上正常な生理周期を保つためには22%以上の体脂肪率が必要である、と報告されています。

無月経の期間が短ければ短いほど、しっかりとしたケアを行えば、正常な生理周期に回復する確率が高いですが、短かったとしても回復しない例もあるので、生理がこなくなってしまったら早めに治療を受けましょう。生理がこない期間が長いと、女性ホルモンの低下によって、疲労骨折をしやすくなるというリスクも報告されています。

女性アスリートを指導、またはケア・サポートする立場の人は、シーズン中でもしっかり休養日をもうけるようにしたり、オフシーズンはトレーニング量を減らすことなど、健康管理にしっかりと気を配る必要があるでしょう。

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