前回の記事「Healing Process|人間の身体が持つ傷を治るメカニズム」では、傷が治るプロセスについて解説しました。今回の記事では、擦り傷や切り傷といった「傷(キズ)」をより早く、よりキレイに治すための方法をお伝えしていきます。

数年前までは、転んで擦りむいたり、何かで切ってしまってできた傷には、マキロンのような消毒液をかけて消毒し、バンドエイドを貼って傷口を守る、という処置が一般的でした。ですが現在では、この方法は不適切であると言われています。

今病院に行ってお医者さんに擦り傷を見せても、消毒はされないはずです。理由はシンプルに「消毒液をかけると治りが遅くなる」から。もし今、擦り傷や切り傷などができたときに消毒液をかけている方は、ぜひこの記事を読んでいただき、今の科学で証明されている「傷を早く治す方法」を知っていただけたらと思います。


>>今回の参考文献はこちら。

nata-skin-managementNational Athletic Trainers’ Association Position Statement: Management of Acute Skin Trauma
追加:2018/8/10】米国アスレティックトレーナー協会が2017年に発表した「肌への外傷(キズなど)」の処置についての論文です。

wound-care-manualSkin and Wound Care Manual
2008年にカナダで発表された、皮膚と怪我の治療マニュアルです。

 

wound-healing-article「Moist Wound Healing」
これは湿潤治療がケーススタディと共に簡単にまとめられた論文です。

 

wound-dressing-manual「Moisture Controlling Wound Dressing to Optimize Wound Healing」
これはアメリカの湿潤治療用の医療道具を販売している会社の商品の効果に関するケーススタディです。

 

擦り傷・切り傷を早くキレイに治すポイントは4つ

早速結論です。擦り傷や切り傷を早くキレイに治すために覚えておくべきポイントは、以下の4つです。

  1. 消毒液は使わず、流水(=水道水)で傷をキレイにする
  2. 傷は乾燥させずに潤った状態をキープする
  3. 絆創膏やキズパワーパッドで傷を守る
  4. 傷をキレイに保つ

具体的な傷の応急処置の方法を、ここから解説していきます。

※縫う必要があるくらいの深いキズの場合は、放っておいても治らないので、すぐに病院(形成外科・外科・皮膚科・救急外来など)に行きましょう。これは縫うくらいの深いキズなのかな?大丈夫なのかな?と不安な場合も、病院に行きましょう。わからないときは自分で判断せず、専門家に任せるのが一番です。

1)流水で擦り傷をキレイにする。消毒液は使わない。

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傷口をしっかり消毒しないと、ばい菌が入って腫れてしまったり化膿したりすると思われがちですが、現代の科学では、むしろ逆で「消毒液を使うと、傷を治すための細胞まで殺してしまい、治りが遅くなる」と言われています。

ではどうするかといえば、「水道水で洗ってキレイにする」ことが大切です。蒸留水やミネラルウォーターなどの特殊な水を使う必要は全くありません。転んでしまってすり傷ができた、という場合は、まず水道を探して、水を流しっぱなしにしながらたくさんの水を使って、傷口から砂や土をしっかり落としてキレイにしましょう。

砂や土などが傷に残ったままになってしまうと化膿します。よって、しっかりと水で洗浄することがまず何より大切です。

傷口を洗うときは、石鹸やボディーソープなどを使う必要もありません。とにかく「傷口に異物が残らないようにする」ことがポイントです。

2)擦り傷は乾燥させない。かさぶたは作るべきではない。

vaseline

すり傷や切り傷ができて、水でしっかりと傷口をキレイに洗い流したら、次はその傷をキレイなままキープする必要があります。

上記した「消毒液は使うべきではない」と同じように、傷口をキレイにキープする方法も、数年前までは「バンドエイドを貼って傷口を守っておけば、数日するとかさぶたができて、やがてかさぶたが剥がれて治る」というプロセスがベストだと思われてきました。確かにこの方法でも傷は治るのですが、今回の記事のテーマである「早くキレイに治す」ためには、間違った方法となります。

昔から考えられている「かさぶたができているのは傷が治っている証拠」というのは間違い。今は「かさぶたを作らずに治す」方法が主流であり、こちらの方がより早くキレイに傷が治ります。

では、どのように傷口をキレイなままキープするかと言うと、ワセリンオロナイン軟膏などを傷口に塗って、乾燥させずに潤った状態にするのがベストです。特にワセリンは、1つ持っておけばこのような傷の処置にも使えますし、乾燥肌にも使えます。寒い地域にいる方や水を扱う仕事をされている方は、手のあれやアカギレにもワセリンが使えます。ぜひ常備しておくと良いと思います。

私の場合は、ちょっとした傷であればワセリンだけ塗って放置です。お風呂に入るときに傷を洗って、出たらワセリン。これだけでちょっとした傷はあっという間にキレイになりますよ。

このように、傷口を乾燥させずに潤わせた状態を保つ方法を「湿潤治療(しつじゅんちりょう)」と言ったりします。その名の通り「傷口を湿らせて治す」治療法で、傷が治る過程で体内から排出される、皮膚や組織を再生させる体液を傷口に保ち続ける、というのがコンセプトです。

3)擦り傷にはワセリンの上から絆創膏や包帯

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傷口を水でキレイにして、ワセリンを塗って乾燥を防いだら、傷を早くキレイに治す環境はこれで整ったので充分なのですが、再び転んで同じところをまたすりむいてしまったり、その傷口に何かが直接当たってしまうと、すごく痛いのはもちろん、さらに傷を悪化させてしまう可能性があります。よって、絆創膏(ばんそうこう)を貼ったり、保護パッド+包帯・自着性テープなどを使って、傷を守りましょう

ワセリンを塗っているので、あまり小さい絆創膏だとうまく貼れません。よって、大きめの絆創膏を用意しておくと良いでしょう。スポーツの指導者やトレーナーの方は、大きな傷口保護パッドのようなものを傷口に置いて、その上から包帯を巻いたり、肌にくっつかずテープ同士がくっつく自着性テープを巻くと、運動中に絆創膏が剥がれてしまうということが防げます。

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4)キズパワーパッドを使えばワセリンも必要なし

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2)で説明した「傷は乾燥させずに潤った状態をキープする」ことと、3)で説明した「傷を守る」ことを両方いっぺんにできるのが「キズパワーパッド」です。

ハイドロコロイドと呼ばれる医療用の素材で作られた絆創膏で、傷口が乾燥しないように潤った状態を、貼るだけでキープすることができます。ワセリンを塗る必要がないので大きいサイズの絆創膏である必要もなく、傷口さえ覆えれば問題ありません。

お子さんをお持ちで、よく肘とか膝を擦りむいて家に帰ってくるという場合は「キズパワーパッド ひじ・ひざ用」を用意しておくとより良いかもしれませんね。ヒールで外を長時間歩かないといけない、なんていう女性は「キズパワーパッド 靴ずれ用」をカバンの中にいれておくのも良いかもです。「キズパワーパッド 〇〇用」は他にもたくさんあります。助かりますね。

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5)擦り傷は1日1回キレイに洗う

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傷はキレイにキープし続ける必要があります。1日に何度も何度も洗う必要はないですが、汗をかいた後や、シャワーを浴びたときなどには、傷をしっかり洗いましょう。何か異物がついていないかも確認します。

キズパワーパッドを使用すると、しばらくすると透明 or 白い液体が出てきて、傷口あたりが膨らんでくるかと思いますが、それは傷を治すための液体なので心配する必要はありません。キズパワーパッドを使用した場合は、2〜3日は剥がさずにそのままで大丈夫です。運動をして汗をかいたり、キズパワーパッドが剥がれそうになったり、あまりにも液体が漏れ出してきた場合は、取り外してキレイに洗いましょう。

※キズパワーパッドの使い方は、BAND-AIDのホームページに詳しく解説されているので、参考にしてください。

「潤わして密閉する」湿潤治療をやってはいけないケース

ここまでを見るといいことだらけに見えますが、注意点があることも知っておいてください。NPO法人 創傷治癒センターによると、湿潤治療が不適切なケースもあるようです(参考資料:不適切な湿潤治療による被害 いわゆる“ラップ療法”の功罪)

記事にもあるように、糖尿病や末梢動脈疾患を持っている人には適していない治療法ですので、その場合は避けましょう。それ以外にも、治癒過程でなにか異変や違和感を感じた場合はすぐに医師に相談してください。

また、「感染症」による腫れや傷などは、密閉しては逆効果です。もしその腫れや傷がズキズキしていつまでも痛みが和らがない場合は、それは感染によるものの可能性があるので、すぐに病院へ行きましょう。

まとめ

擦り傷・切り傷を早くキレイに治す方法は、

  1. 水道水で傷口をしっかり洗って、ばい菌・異物を取り除く
  2. ワセリンなどを使って、傷を乾燥させないように潤いを与える
  3. 絆創膏や、ガーゼ+自着性テープ、もしくはキズパワーパッドを貼って傷を守る
  4. 水道水やシャワーなどで傷を定期的に洗い、傷をキレイに保つ

となります。かさぶたができず、あっという間にキレイに治るので、ぜひ試してみてください。

もし「痛み」が発生したり、傷が全然治らない、という場合は、すぐに病院(形成外科・外科・皮膚科・救急外来など)へ行きましょう。

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