スポーツ現場において、いまや欠かせないケアのアイテムとなっている「氷(アイシング)」。練習後の身体のケアやリハビリのアイテムとして氷を使っている人は多いと思います。

アイシングをすることは、その部位の痛みを感じにくくさせたり、代謝を減らすため、ケガをしたあとの過度な腫れを抑える、などの効果があります。

ですが、「アイシングをする」といっても、色々な方法があります。アイスバッグや氷のう、水風呂、アイスマッサージ、冷凍のジェルパック などなど。

今回の研究は「氷」を使ったアイシングなのですが、3種類の氷を使って、どんな氷を使うとより筋肉内の温度を下がることができるのか?というのを比較しています。

アイスバッグを使って同じ時間(20分間)アイシングをする場合、どんな氷を使うのが一番効果的なのか(=筋肉内の温度が一番下がるのか)を紹介します。


>>今回の参考文献はこちらです。

 

  1. Comparison of Cubed Ice, Crushed Ice, and Wetted Ice on Intramuscular and Surface Temperature Changes
    キューブアイス、クラッシュアイス、水と氷を混ぜたウェットアイスの3種類の氷でアイシングをした場合、肌と筋肉内の温度はどれくらい下がるのか、を研究した論文です。Journal of Athletic Trainingより。

アイシングに使われた3種類の氷

まず、今回の参考文献で比較された3種類の氷とはどのようなものなのか、紹介します。

1)キューブアイス

cube-ice名前のとおり、キューブ状の氷のこと。カフェなどで飲み物に入っているような、一般的に私たちが目にする氷ですね。

2)クラッシュアイス

crushed-iceクラッシュという名の通り、粉々になった氷のこと。1つ1つの氷が小さいので、サラサラしており、キューブよりも溶けやすいです。

3)ウェットアイス

wetted-ice
花岡岩のつぶやきより

これはアイスバッグの中に氷と水の両方を入れたもの。氷のみで置いておくよりも溶けるスピードが早くなります。

この3種類の氷を使ってそれぞれアイスバッグを作り、ベッドにうつ伏せになった被験者のふくらはぎに置いて、20分間アイシングを行いました。包帯やバンテージなどで固定はされず、アイスバッグはそのままふくらはぎに置かれました。

アイスバッグは22×40センチの大きさ。キューブアイスとクラッシュアイスはそれぞれ2000mL使われ、ウェットアイスには2000mLのキューブアイスに300mLの水(部屋の温度の水)が加えられました。

30秒ごとに20分間、皮膚と筋肉内の温度が計測されました。

3種類の氷を使ったアイシングの結果

結果は以下の通りになりました。

1)キューブアイス

  • 肌:マイナス14.1℃
  • 筋肉内:マイナス4.8℃

2)クラッシュアイス

  • 肌:マイナス15℃
  • 筋肉内:マイナス4.3℃

3)ウェットアイス

  • 肌:マイナス17℃
  • 筋肉内:マイナス6℃

というわけで、ウェットアイスが肌と筋肉内ともに最も温度を下げました

つまり、もしアイシングによって達成したい目標が「温度をより早く、より低くする」ことである場合は、アイシングにはウェットアイスを使うのがもっともいい、ということになります。

ウェットアイスが最も温度を下げた理由

icing-tennis
popsugar.comより

ウェットアイスが一番温度を下げた理由としてこの研究の著者らは、水を入れることによって、よりアイスバッグが肌に密着し、より広い面積で冷やすことができるからだろう、と考察しています。

また、温度が一番下がる(=肌と氷による熱交換が起こる)のは、固体から液体、液体から気体と、物体の形が変わるときです

氷と水を一緒に入れてアイスバッグを作ると、氷(=固体)がより早く水(=液体)に変化するため、温度がより下がったと思われます。

さらに、空気は液体よりも熱の移動が起きにくいです。ウェットアイスは肌と氷の間に水が入るため、空気が間に入らず、より効率的な熱交換が行われます。

一方キューブアイスとクラッシュアイスは、氷と肌の間には少なからず空気が入りこんでしまうため、その空気が温度を下げる邪魔をしてしまいます。

アイシングを終えても筋肉内温度は下がり続ける

更にもう一つこの研究でわかったこと。

アイシングを20分やり終えてアイスバッグを患部からとると、肌の温度は上昇していったのに対し、筋肉内の温度はまだ下がり続けていきました

今回の研究では、アイスバッグを患部からとって10〜15分後に筋肉内の温度がもっとも低くなり、そこから徐々に温度は上昇していきました。

このことからわかること。アイシングによるケアを終えたらすぐに動き出すのではなく、10〜15分くらいじっとしていることで、更に筋肉内の温度は下がり、より効果的なトリートメントになるかもしれません。

動いてしまうと、筋肉はエネルギーを使うので熱が生まれ、温度は上がっていきます。

まとめ

アイシングに使う氷の種類を変えることで、温度の下がり方は変わるのか?という研究を紹介しました。

この研究の結果としては、アイスバッグや氷のうを使ってアイシングをするときは、少し水を入れることで、より肌や筋肉の温度を効果的に下げることができる、という結論となりました。

よく、アイスバッグをまとめて作って、クーラーボックスなどに保管しておくことがあると思います。数十分後そのアイスバッグを使うとき、氷が少し溶けているかもしれません。

でも、その水を取り除かずにそのまま使いましょう。いい感じで氷が溶けてウェットアイスになっています。

いまや運動後のケアとして、どこでも使われるようになった「アイシング」。アイスバッグに少しだけ水を入れる、というちょっとしたことで、より効果的に身体のケアができるようになります。

もちろん冷やし過ぎには注意しないといけませんが。ぜひ試してみてください。

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