肩の怪我にはたくさんの種類がありますが、中でも「SLAP損傷」は、早期発見して、早期対処を行わないと、手術が必要になってしまいます。

スポーツを楽しむ方やアスリートは、できれば手術はしたくないですよね?

本記事では、SLAP損傷とはどういうものなのか? また、SLAP損傷が起こってしまう原因・メカニズムを解説していきます。

SLAP損傷に限らずですが、怪我を予防するためには、その怪我になってしまう原因を知り、その原因が起きないようにすることです。

SLAP損傷について知ることで、肩の痛み・怪我を予防し、100%のパフォーマンスでスポーツができるようにしましょう。


>>今回の参考文献はこちらです。

  1. National Athletic Trainers’ Association Position Statement: Evaluation, Management, and Outcomes of and Return-to-Play Criteria for Overhead Athletes With Superior Labral Anterior-Posterior Injuries
    NATA(米国アスレティックトレーナー協会)による最新のポジションステイトメント。138もの論文が引用されている素晴らしい論文です。
  2. Diagnosis Accuracy of Clinical Tests for Superior Labral Anterior Posterior Lesions: A Systematic Review
    SLAP損傷を見極めるための数多くあるスペシャルテストの正確性を調べたシステマティックレビューです。
  3. A Meta-analysis Examining Clinical Test Utility for Assessing Superior Labral Anterior Posterior Lesions
    SLAP損傷のスペシャルテストに関するもう1つの文献です。こちらはメタ解析になっています。
  4. Superior labral anterior posterior lesions of the shoulder: Current diagnostic and therapeutic standards
    関節唇の解剖やSLAP損傷のメカニズムについて詳しく解説されていました。基礎知識が必要な方には良い論文です。

SLAP損傷(上方肩関節唇損傷)とは?

slap-lesion-anatomySaint Luke’s Health Systemより

SLAPとは「Superior Labral Anterior Posterior」の頭文字をとったものです。

さらに具体的に説明すると「Superior=上方」「Labral=関節唇(かんせつしん)」「Anterior=前方」「Posterior=後方」となります。

まとめると、「関節唇の上の方が、前方から後方にかけて損傷している」という怪我になります。

そして、上画像を見ると分かる通り、関節唇の上方には「上腕二頭筋腱(Biceps tendon)」が付着しており、そこが「SLAP lesion(SLAP損傷)」となっていますね?

つまりSLAP損傷とは「上腕二頭筋腱が付着している関節唇上方の損傷」となります。

※その他の単語の意味です。「Labrum=関節唇」「Glenoid=関節窩」「Humerus=上腕骨」

関節唇とは?

関節唇の上方を損傷してしまうのがSLAP損傷という話をしましたが、そもそも「関節唇」とはなんなのでしょうか。

関節唇は、膝関節で言う「半月板」と同じような役割を果たす軟骨です。

肩関節は、身体にある関節の中で最も可動域の大きい関節です。

「肩関節」と言うと一般的に指すのは「肩甲上腕関節」ですが、これは肩甲骨と上腕骨でできている関節のこと。

左画像はPhysiocapsuleより, 右画像はLawrenceGAltman.comより

左画像の上に小さくNeckとかGreater Trochanterと書いてありますが(小さくてすみません)、その半球状になっている部分が肩関節を作る側。下の方は肘関節を構成する側です。

右画像は肩甲骨。その中で「Glenoid Cavity(=関節窩【かんせつか】)」とあるところが、肩関節を作る関節の面になります。

golf-ball-and-tee
ゴルフボールが上腕骨。ティーが肩甲骨。

それぞれ見てもらうとわかる通り、上腕骨の方は半球状になっているのに対し、肩甲骨の方はほぼ平面ですよね?

この肩甲上腕関節はよく「ゴルフボールがティーに乗っているような状態」と表現されるのですが、それくらい、あまりガツッとハマっている関節ではなく、ちょこんと乗っている感じで、とても不安定な関節なのです。

この不安定な関節の構造が、逆に可動域の大きさを生み出しているのも事実なのですが、その分、大きな衝撃を加えるとすぐに関節が外れてしまったり(=脱臼)、とても怪我をしやすい構造になっています。

ちょっと肩関節の説明が長くなりましたが、この不安定な肩関節を少しでも安定させるためにあるのが「関節唇」です。

関節唇は、肩甲骨の関節窩の周り(=縁【ふち】)にくっついている軟骨で、少しでも半球状の上腕骨との関節の面積を増やすためにあります。

関節として面している面積は、多ければ多いほど安定しますからね。

SLAP損傷が起こる原因・メカニズム

SLAP損傷は、スポーツをしている人だけでなく、日常生活の中でも起きてしまう可能性があります。

SLAP損傷が突然起きてしまうタイプ(=急性の怪我)と、徐々に損傷してしまうタイプ(=慢性の怪我)の2種類のメカニズムを紹介します。

【急性①】転んで身体の後ろに手をつく

ski-falling

急性的にSLAP損傷になってしまう原因としてよく起こるのが「転んで身体の後ろに手をついた時」です。

例えば冬の時期であれば、スキーやスノーボードをしている最中に転んで手を地面につく、ということがありますね?

勢いよく転んでしまって、腕を伸ばした状態で手を自分の背中側についた時、腕全体が肩の方に押されて、上記した「関節窩」に一瞬圧迫の力が加わります。

その時に、関節唇に傷がついてしまったり、損傷してしまうことがあります。

写真はスキーの画像ですが、普通に道を歩いていて転んでしまった場合でも同じことが起きます。

気をつけても防ぐことはなかなか難しいですが、転んで後ろに手をついてからなんか肩が痛いな、という場合は、関節唇の損傷は疑うべき怪我の一つかと思います。

【急性②】突然強い力で腕を引っ張られる

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もう1つの、SLAP損傷が急性的に起こってしまうメカニズムは「突然、腕を強い力で引っ張られた時」です。

slap-lesion-anatomy右画像を見るとわかるように、関節唇の上側には、上腕二頭筋の腱が付着しています。

腕が急に引っ張られると(=牽引の力が働いた時)、その腱が関節唇ごと引っ張り、関節唇が関節窩から剥がれてしまう、ということが起きます。

「腕を強く引っ張られる」と聞くと、日常生活ではあまり起こることはなさそうに思うかもしれませんが、重い荷物などを運んでいて、手が汗で滑って突然その荷物を落としてしまった、というような経験ありませんか?

「重い荷物を突然落とす」その瞬間、重い荷物によって腕は強い力で引っ張られています。

そんな動作でも、関節唇を損傷してしまうことがあるのです。

bouldering

また、ボルダリングをしている時に手が滑って落ちてしまった時なども、手が壁から離れてしまう瞬間に腕に牽引の力が働くため、関節唇を損傷してしまうことがあります。

このように、関節唇を損傷してしまうメカニズムは、実は日常生活の中に意外とたくさん潜んでいます。

トレーナーとしては、「肩が痛い!」と選手に言われたときは、いきなりスペシャルテストを始めるのではなく、まずは「いつから痛くなりだしたのか?」「痛めてしまった出来事に思い当たるフシはあるか?」など、しっかりその痛みの原因を聞き出すことから始めることがとても重要になります。

肩関節の怪我というのはSLAP損傷だけではなく、たくさんありますからね。

【慢性①】オーバーヘッドスポーツの選手

quarterback

ここまで何度も出てきていますが、関節唇の上方部には「上腕二頭筋腱」が付着しています(どても重要なので何度も言います)。

いわゆる「オーバーヘッドスポーツ」と呼ばれる、腕を肩よりも高く上げる動作を多く行うスポーツ(野球・バレーボール・アメフト・バスケ・テニス・ハンドボール・水泳など)を行っている選手は、SLAP損傷になってしまう可能性が高くなります。

ボールを投げる動作のときに、関節唇に付着している上腕二頭筋の活動はとても大きくなります

投球動作を何回も何回もし続けることで、この上腕二頭筋の「引っ張る力(=伸張・牽引の力)」が関節唇にかかり続け、関節唇が徐々に徐々に損傷していってしまうことがあります。

投球動作=肩関節外転&外旋動作

「投球動作」を具体的に表すと、肩関節が外転をしていて、更に大きく外旋している状態を言います。

これを速い動きで、ボールを投げたり、ラケットを振ったりすることで、上腕二頭筋が関節唇を引っ張る方向に働く力が大きくなり、損傷につながります。

【慢性②】肩関節後部の硬さ

肩関節の可動域低下は、SLAP損傷のリスクを高めます。

特に注目したい肩関節の動きは以下の2つです。

  • 投球動作をしない側の肩関節と比べて、水平内転の動きが15度以上少ない
  • 投球動作をしない側の肩関節と比べて、内旋の動きが13度以上少ない

肩関節の内旋制限は、もしその分外旋の可動域が、逆側の肩関節よりも15度以上増えていた場合は、SLAP損傷のリスクは下がります。

肩関節の内旋制限があるにも関わらず、外旋動作は左右どちらも同じくらいの可動域、というのが、SLAP損傷のリスクファクターの1つです。

SLAP損傷になることを防ぐための肩のトレーニングを知りたい方は、ぜひ「【野球部必見】肩のトレーニング14選|リハビリ・怪我予防にも!」」もご覧ください。野球部必見!と書かれていますが、投球動作を行うスポーツをする方々にオススメのエクササイズを紹介しています。

ちなみに…SLAP損傷には4種類ある

「SLAP損傷」と一言で言っても、実は損傷の仕方によって4種類(Type I〜Type IV)に分けられます。今回はこの4種類については詳しくは掘り下げないので、知りたい方はぜひ自分で調べてみてください。

ちなみにちなみに、SLAP損傷の中で一番多く起こると言われているのが「Type II」です。

まとめ

SLAP損傷について、解説してきました。

肩関節は可動域が大きい分怪我もしやすく、怪我の種類もとても多いため、トレーナーとしてその怪我を評価するのはとても難しいです。

しっかりと肩関節の構造を理解すること。怪我が起きたメカニズムを聞き出すこと。そして、今回紹介したようなスペシャルテストを正確に行うこと。

トレーナーとして、その人はすぐに病院へ行く必要があるのか、それとも数日ケアをすれば治るようなものなのか。すぐに伝えてあげることで、選手や患者さんの不安は解消されるとともに、迅速な対処やケアは怪我を最小限に抑えることに繋がります。

少しでも皆さんのお役に立てたら幸いです。

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