トレーナーとして、またはフィットネスインストラクターとして活動をしていると、選手・クライアント・患者さんに必ず言われるのが「脂肪を減らしたい」「体脂肪率を少なくしたい」ということです。

「やせたい」「体重を減らしたい」と言う人も、筋肉を減らしたいという人はまずいなくて、「筋肉を増やして(もしくはなるべく維持して)、脂肪を減らして、体重を減らしたい」という人がほぼ100%です。

身体に過剰な脂肪が溜まってしまった状態のことを「肥満」と言います。そして、過剰な脂肪はあらゆる病気や生活習慣病を引き起こす要因となります。

見た目を良くしたいという理由でやせたいという人にとっても脂肪は悪者だし、ずっと健康でいたいという人にとっても脂肪は悪者です。あらゆる人にとって悪者となっている脂肪は、なぜ身体にたまってしまうのでしょうか?

理由は「脳は脂肪を溜めたい」からです。脂肪が溜まるのは脳による命令なのです。

今回の記事では、なぜ脳は脂肪をためようとするのか、なぜ脂肪によって体は不健康になってしまうのか、といったことをお話していきます。ここを理解しておくと、「減量」について本質的に考えられるようになります。


>>今回の参考資料は以下の通りです。

  1. 肥満症診療ガイドライン2016|日本肥満学会
    かなり多くの参考文献をもとに書かれているガイドラインで、とても信頼できる情報が詰まった本だと思います。
  2. Newton別冊『体と病気の科学知識 新装版』
    2019年6月発行のNewton別冊です。臓器関係の病気、アレルギーについて、肥満や生活習慣について、さらにガンについてなど、良い情報が満載です。
  3. 毎日100gダイエット!内臓脂肪を減らす食べ方/工藤考文
    内科医である工藤考文先生による著書です。とてもわかりやすい言葉で書かれており、読みやすいうえに学びがとても多い本でした。

ダイエットがうまくいかないのは「脳は脂肪が好き」だから

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多くの人が減らしたいと願う脂肪がなぜ身体に溜まるのか。理由は「飢餓(飢え)で死なないようにするため」です。

農耕(=畑や田んぼで作物を育てること)が行われるようになる近代前は、人間は狩猟(=鉄砲や網を使って鳥獣を捕える)をして食料を得ていました。

狩猟時代は、ラッキーなときはたくさん獲物を捕まえることができますが、多くの場合はあまり獲物が捕れず、あるときは全く獲物が現れない、食料がない、ということも大いにありました。

よって、全く獲物が捕れない期間が続いて食料がなくても死なないように、たくさん獲物が捕れたときにたらふく食べておき、それを体内に「脂肪」として蓄えておくことで、食糧不足のときは、その蓄えた脂肪をエネルギーに変換して生き延びていた、ということなのです。

今でこそ、日本は食べ物で溢れる国となりましたが、人類の歴史で考えるとほとんどの期間は「飢えて死ぬ」ことが一番の敵でした。よって人間の脳は、とにかく「飢えて死なないように」ということを一番に考えています。

脳は、お腹が空いたという信号を出したり、食事の時間だということを認識すると、「いつ食事ができるかわからないから今のうちにたらふく食べておけ!」という命令を出して、「飢餓を防ぐエネルギー=脂肪」を身体に溜めておこうとするのです。

脳にとっては「脂肪がたくさんある=飢餓にならない=良いこと」なのです。脳は脂肪がたくさんあるとすごく安心なのです。これが、脳が脂肪を溜め込もうとする理由であり、ダイエットがうまくいかない理由です。

脳がダイエットを邪魔している

脳が「脂肪がたくさんある=死ななくて済む」と考えているということがわかると、ダイエットする(=やせる・脂肪を減らす・体重を減らす)ことが大変で何度やってもうまくいかない理由もわかります。

つまり、脳は「脂肪が減る=飢餓になって死ぬ=悪いこと」と考えるため、脳にとって「やせる」ということは「死ぬ・不健康になる」ということなのです。

ダイエットをなんとしても成功させたい!と考えている人の最大の敵は、自分自身の脳なのです。

身体はなぜ脂肪によって不健康になるのか

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脳が飢餓に備えて溜めようとする脂肪は、過剰に溜まってしまうとあらゆる病気を引き起こしていきます。中でも肥満と密接に関係しているのが「糖尿病」「高血圧」「高脂血症(脂質異常症)」などの、いわゆる「生活習慣病」です。

脂肪の溜まりすぎが、なぜこれらの生活習慣病を引き起こす要因となるのでしょうか?

様々な病気を引き起こす「内臓脂肪」

脂肪細胞は全身にあるため、身体のあらゆる部位に脂肪はたまります。ですが、特にたまりやすい(=脂肪細胞がたくさん集まっている)のが「皮下組織」と「内臓の周り」です。

皮下組織にたまるのが「皮下脂肪」です。言葉の通り、皮膚の下についた脂肪で、身体の体温を保ったり、外部からの衝撃を和らげたりと、生きる上で必要不可欠なものです。

皮下脂肪が減りすぎると、体温が下がりやすくなったり、免疫機能が低下するなどのマイナス面があります。

お腹の中にある内臓の周りにたまるのが「内臓脂肪」です。そして、肥満症診療ガイドラインにははっきり「内臓脂肪の蓄積が健康障害と関係する」と示されています。

つまり、脂肪は脂肪でも、特にカラダを蝕むのは内臓脂肪。内臓脂肪がたまると、上記した生活習慣病(糖尿病・高血圧・高脂血症など)の発症リスクが高くなることが、多くの研究によって明らかになっています。

死なないように!と脳は脂肪を溜めているのに、溜めすぎるとそれはそれで健康を損ねてしまう。なんとも皮肉なものですね。

内臓脂肪の過多は「ホルモン」の分泌を減らす

工藤考文先生によると、内臓脂肪がたまることで生活習慣病を引き起こしてしまう理由の1つが「健康を維持するホルモンの分泌量が減ってしまう」ことだと示しています。

食欲を抑える「レプチン」というホルモンは、内臓脂肪がたまればたまるほど分泌量が減ってしまいます。レプチンが減るということは、食欲が抑えられなくなるということなので、食べる量はどんどん増えてしまいます。内臓脂肪が増えれば増えるほど食欲が止まらなくなる、という恐ろしい状況になります。

アディポネクチン」というホルモンは「脂肪を燃焼させる」「インスリンの働きを良くして血糖値をコントロールする」などの働きがあります。このホルモンも、内臓脂肪が増えると逆に分泌量が減るということ。

つまり、内臓脂肪が増えるほど、脂肪は燃焼されにくくなり、インスリンの働きも悪くなります。脂肪が燃焼されなければ身体にたまっていきますし、インスリンの働きが悪くなれば、糖尿病に向かっていきます。

その他にも、内臓脂肪が過度にたまると血管が収縮しやすくなり、結果、高血圧になるリスクが上がります。

また、内臓脂肪がたくさんあると、一部が「遊離脂肪酸」として血液中に流れやすくなります。その量が増えると、HDL(善玉コレステロール)は減り、LDL(悪玉コレステロール)は増え、結果として脂質異常症になってしまいます。

過剰に脂肪が身体にたまってしまうと、その脂肪は身体を健康に維持するためのあらゆる機能を低下させ、同時にどんどん痩せにくい身体になっていく。脂肪がたまればたまるほど、どんどんダイエットはうまくいかなくなってしまうのです。

糖尿病について詳しく知りたい方は「糖尿病チェック10項目|8項目当てはまったらあなたは糖質中毒かも」の記事をぜひお読み下さい。

まとめ

「脂肪はなぜたまってしまうのか」という本質を知ると、減量・ダイエットをしていくときに、自分の行動をコントロールしやすくなります。

「食べる量がなかなか減らせないのは、内臓脂肪が溜まっちゃったからレプチンが出てないんだ」と分かっていれば、冷静に自分の自制心で食事の量を抑えられるようになったり、内臓脂肪が溜まりすぎないような行動を日常的にとることができます。

減量・ダイエットがなかなかうまくいかないという人は、意思が弱いというのが理由ではありません。脳が本能的に脂肪を溜めようとするので、そもそもダイエットというのは難しいものなのです。

次回の記事では、減量を高い確率で成功させるために、「脂肪を溜めたい脳」をどう抑制していくのかをお伝えします。ポイントは、脳に「脂肪を減らそうとしていることがバレないようにする」ということ。

次回の記事もお楽しみに。

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