「横隔膜」が身体のどこにあって、どう動いているか、しっかりとイメージできますか? この本「勝者の呼吸法 - 横隔膜の使い方をスーパー・アスリートと赤ちゃんに学ぼう!」では、「横隔膜」の働きについての解説がかなり細かくされています。しかも、とてもわかりやすい言葉で。

この本を読んで私は、今までなかなかうまくイメージできなかった横隔膜の動きがだいぶクリアになりました。呼吸に関するエクササイズを行うにも、横隔膜の動きをイメージできると、より効率的に行うことができるようになります。横隔膜について学びたい方にはかなりおすすめの本です。

横隔膜の働きや動きについて、この本から学んだことを記していきます。

呼吸をすると横隔膜はどう動く?

言葉だけで説明してもイメージしずらいので、まずはこちらの動画をみてみましょう。

肋骨の下側にある茶色っぽいものが「横隔膜」であり、呼吸においてメインで働く「主呼吸筋」です。横隔膜はちょうど胸とお腹の真ん中にあり、横隔膜の上側が「胸部」と呼ばれ、下側が「腹部」と呼ばれます。

横隔膜と「膜」と呼ばれるので知らない人も多いですが、横隔膜は筋肉です。よって、腕の筋肉や脚の筋肉と同じように、収縮したり伸びたりします。身体のどの筋肉でも起こる収縮・伸長・弛緩によって、私たちは呼吸を行なっています。

息を吸うと横隔膜は収縮する。息を吐くと横隔膜は弛緩する

横隔膜はリラックスしていると(=弛緩していると)、ドームのように半円を描いています。東京ドームの屋根のような感じです。その状態で息を吸うと、横隔膜が力を発揮して収縮し、その屋根が下におりてきて平らになります。息を吐くと横隔膜はだんだん力が抜けてリラックスし、屋根は上がってドームに戻ります。

息を吸うと横隔膜は収縮する?弛緩する?上に上がる?下に下がる?と混乱する方が多いのですが、「腹部には内臓がある」ということをイメージできると、とてもクリアになります。

なぜ腹式呼吸をするとお腹がふくらむ?

organs
Designed by Freepik

肋骨の下側の腹部には、骨は背骨しかありません(骨盤が一番下)。ですが、その肋骨から下の腹部には様々な臓器があります。横隔膜の右側の下には「肝臓」や「胆嚢(たんのう)」があり、逆側の左側の下には「脾臓(ひぞう)」があります。他にも「胃」や「膵臓(すいぞう)」などがあり、さらに下には「十二指腸」「小腸」「大腸」などがあります。

「腹式呼吸をして!」と言われたら、あなたはどうしますか? 中にはできない人もいますが、できる人は、息を吸うとお腹が膨らむと思います。なぜ息を吸うとお腹が膨らむのかわかりますか?

息を吸うと横隔膜が収縮して、ドーム状になっていた横隔膜が下に下がってきます。横隔膜が下に下がってくると、横隔膜の下にある臓器たちが、下に押されて下がります。腹部にはそんなに広いスペースがあるわけではないので、臓器たちはそれ以上下には行けないとなると、お腹の前側に押し出されます。これが「お腹が膨らむ」原理です。

つまり、「息を吸う → 横隔膜は収縮する → 横隔膜は下に下がる → 内臓が押し出される → お腹が膨らむ」という流れがちゃんとわかっていれば、横隔膜と呼吸の関係について混乱することはなくなると思います。

肺に筋肉はない。横隔膜が上下することで肺に空気が出入りする

呼吸をして行う空気の出し入れは「肺」で行われます。肺から空気中の酸素は脳や全身に届けられ、いらなくなった二酸化炭素を体の外に出します。ですが、肺には筋肉がありません

「筋肉がない」とはどういうことかというと、肺は自分では動けないということ(収縮したり伸びたりできない)。つまり、肺が自ら伸びたり縮んだりして空気中の酸素を取り入れたり、二酸化炭素を出したりすることはできません。ではどうやって空気の出し入れを肺はやっているのか? それが「横隔膜」なのです。

injection

皆さんは、人生で一度は注射を受けたことがあると思います。この「注射器」が、肺と横隔膜の働きによく似ています。

注射器の中には、最初は何も入っていませんよね? その状態で針を刺し、押したり引いたりできる部分を手前に引っ張ることで、血液が注射器の中に入ってきます。これを、血液が空気で、注射器の血が入ってくるところが肺で、手前に引っ張る部分が横隔膜と考えられるでしょうか?

息を吸うと、横隔膜は収縮・緊張します。これが、注射器を手前に引っ張り始めた状態。そのまま横隔膜が収縮し続けると(=注射器を手前に引っ張り続けると)、空気が肺に入ってきます(=血液が注射器の中に入ってくる)。

ちょっとだけ難しい言葉を使ってこの現象を説明すると、注射器を手前に引っ張ると、注射器内の圧力が変化します(=陰圧になる)。注射器内と注射器外の圧力の変化によって血液は注射器内に入ってくる(=物体は圧力の高いところから低いところに移動する)のですが、それと同じことが肺でも起きます。

横隔膜が収縮して下に下がることで、肺の圧力が変化します(=陰圧になる)。その圧力の変化によって、体外の空気が肺に入り込んでくるのです。そして、手前に引っ張っていた部分を逆に押し込めば血液が注射器から出てくるのと同じように、横隔膜がリラックス・弛緩して上に上がってくると、肺が押されて、中の空気も押し出されて、息を吐くことになります。

横隔膜は筋肉なので、使わないと衰える

breathing-using-diaphragm

横隔膜に限らず、人間が持つ筋肉というのは、使えば成長・発達するし、使わなければ衰えていきます。筋トレをすれば筋肉は大きく発達していくし、トレーニングをやめればだんだん筋肉は小さくなっていきます。横隔膜は体内にあるので見えないのですが、他の筋肉と全く同じで、使えば発達するし、使わなければ衰えていきます。

横隔膜が働かなくなると、副呼吸筋が働きすぎる

呼吸によって私たちは、活動に必要な酸素を取り入れたり、いらなくなった二酸化炭素を体外に排出しているのですが、その呼吸をメインで行なっている横隔膜の筋力が低下したり、横隔膜が固まってうまくリラックスできなくなると、体内に取り入れる酸素の量と、体外に出す二酸化炭素の量のバランスが崩れてしまいます。

それではまずいので、横隔膜の働きを補うために動き出すのが「副呼吸筋」です。

副呼吸筋というのは「首・肩・胸周辺の筋肉」のこと。横隔膜によって行う腹式呼吸では足りない酸素・二酸化炭素の出し入れを、副呼吸筋を使って行う「胸式呼吸」によって補い始めます。

副呼吸筋というくらいですから、普段も呼吸の補助を行なっている筋肉たちではあるのですが、これらは本当に必要な時だけ働くべき筋肉たちです。例えば、運動を行なっていてより素早く多くの酸素が必要な時など。ですが、横隔膜の働きが弱まってしまうと、安静時にも副呼吸筋が働く必要が出てくるのです。

副呼吸筋たちが働きすぎると起こる代表的な2つの弊害

人間の筋肉というのは、同じ動作を行う2つの筋肉があれば、2つとも適度に働き協力し合うことが理想なのですが、1つが過剰に働き始めると、もう1つの筋肉は「俺が働かなくても大丈夫だな」と、働くのをやめてしまいます。働くのをやめれば、その筋肉は使われなくなったということなので、どんどん筋力は衰えていきます。

これが横隔膜にも起こります。横隔膜の機能が低下して、副呼吸筋が一生懸命働き出すと、横隔膜は「別に私が働かなくても充分うまくいってるわね」と、働くのをやめます。ただでさえ機能が低下しているのに、さらに働くのをやめてしまうので、どんどん衰えていく、という悪循環に陥ります。つまり「働くべき横隔膜はどんどん衰えていき、あまり働くべきではない副呼吸筋がどんどん働かざるを得なくなる」という弊害です。

もう1つの弊害は「首こり・肩こり・頭痛などの原因になる」こと。

人間は1日に約2万回呼吸をしています。約2万回も筋肉を使えば、どの筋肉だって疲れはたまりますよね? 横隔膜を使っての腹式呼吸によってうまく空気の出し入れができず、安静時にも副呼吸筋を使っての胸式呼吸をし始めると、首や肩の筋肉を一日中使い続けることになります。そりゃあそんだけ使ってれば肩も凝るわな、という感じです。いくらマッサージして肩の筋肉を柔らかくしてもまたすぐ凝ってしまうのは、もしかしたら「横隔膜の機能低下による副呼吸筋の使いすぎ=呼吸が原因」という可能性があるのです。

まとめ

横隔膜は体内にあって目には見えないので、どうしてもイメージしずらいです。ですが、身体の勉強をしている人、トレーナーを目指している人、運動指導をする人、選手をサポートしている人、もしくは選手自身にも、横隔膜をしっかりイメージして、その動きや働きを理解して欲しいと思います。

無意識に行なっている呼吸、でも意識することで変えることができる呼吸。呼吸を理解するためには、まずは横隔膜の理解だと思います。

面白くて、難しくて、奥が深くて、学べば学ぶほどわからなくもなる、楽しい分野ですね。

Comments are closed.