今やスポーツの世界では、練習やトレーニング後のケアとしてどこでも使われるようになってきている「水風呂」。

今回は、「筋肉痛」のケアとして水風呂は有効なのか?また、一言に水風呂といっても、一体何度の水で、何分くらい浸かるのが一番効果的なのか?そんなことについて、調べてみました。


>>参考にした論文はこちら。

cold-water-immersion-articleCold Water Immersion in the management of delayed-onset muscle soreness: Is dose important? A randomized controlled trial
筋肉痛のケアとして、4種類の異なる水風呂(水の温度 と浸かる長さ)の効果を研究した、2014年に発表された論文です。

筋肉痛ってなに?

まずは、筋肉痛について少しだけ解説します。

筋肉痛とは、運動やトレーニングをした数日後にくる筋肉の痛みのことで、正式には遅発性筋肉痛(=Delayed Onset Muscle Soreness)と呼ばれます。「運動をした数日後」というのがポイントなので、練習・トレーニングをしている最中に筋肉に痛みが出た場合、それは筋肉痛ではなく、肉離れや筋けいれん、筋肉がつった状態など、別の原因である可能性があります。

筋肉痛は、あまりやったことのない動きやトレーニング(=不慣れな動作)をした後や、伸張性収縮(=エキセントリック収縮とも言います)を用いたトレーニングをしたあとに起こります。

運動中、もしくは運動後すぐに痛みが出た場合、それは「怪我」かもしれません。怪我の応急処置にもアイシングは効果的です。怪我の応急処置のためのアイシングについては「怪我の応急処置にはPRICEがベスト|適切な処置で最短の復帰を」の記事をご覧ください。

伸張性収縮(エキセントリック収縮)とは?

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伸張性収縮とは、筋肉が伸びながら(=ストレッチされながら)力を発揮する運動のこと。

(例)ダンベルカール(=上腕二頭筋を鍛えるエクササイズ。上写真参考)

肘が伸びた状態から曲げていくとき(=ダンベルは下から上にあがってくる)、上腕二頭筋はだんだん短くなっていきますね。これを短縮性収縮(=コンセントリック収縮)と言います。

肘が曲がった状態からだんだん肘を伸ばしていくとき(=上に挙げたダンベルを下におろしていく)、上腕二頭筋はだんだん伸びながらも、手にはダンベルを持っているため、それを支えるために力は発揮されています。この状態を、伸張性収縮(=エキセントリック収縮)と言います。

筋肉痛の症状

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筋肉痛はいつ起こり、どんな症状があらわれるのでしょうか?

一般的に遅発性筋肉痛は、運動・トレーニングをしてから1〜3日後に痛みのピーク(多くの研究で、トレーニングから48時間後に一番の痛みのピークがくる、と報告されています)がきて、5〜7日で痛みがなくなると言われています。

筋肉痛の主な症状は、以下の通り。

  • 関節可動域(=ROM; 関節が動く範囲のこと)の減少
  • 動きによる痛み
  • 筋力の減少(100%の筋力を発揮できない)

筋肉痛になると、痛みによって筋肉がストレッチできなくなり、関節の可動域がせまくなったり、100%の筋力を発揮できなくなってしまうので、パフォーマンスが低下してしまいます。運動をする人、特にアスリートにとっては、激しいトレーニングを積みつつも、パフォーマンスの低下はなるべく避けたいですよね。よって、筋肉痛をいかに減らすか/予防するかは、とても重要になってきます。

水風呂は筋肉痛ケア・予防のアイシングとして有効?

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運動後に水風呂につかることは、以下のような効果があると言われています。

  • 痛みの軽減(=アイシングの効果)
  • 代謝が低くなり、余分な腫れが起きることを防ぐ(=過度な筋肉痛やケガの予防)
  • 一気に体を冷やすことで血管が収縮するため、水風呂から出た時に、今度は一気に血管が拡張して血流がよくなり、新鮮な血液(酸素や栄養をたっぷり含んだ)が全身に流れる(=疲労回復の促進)

さて、参考文献の研究は、以下の4種類の水風呂(+コントロール群)を使った筋肉痛に対するケアの効果を調べています。

  1. 短い時間での交代浴:「38℃のお湯に1分 - 10℃の水に1分 」を3セット
  2. 短い時間での水風呂:「10℃の水に1分 - 何もしない 1分」を3セット
  3. 10℃の水で10分間の水風呂
  4. 6℃の水で10分間の水風呂
  5. 何もしない

実験の被験者は、遅発性筋肉痛を起こすためにハムストリングのエキセントリック収縮を用いたトレーニングを行いました。そして、水風呂にはそのトレーニング後すぐに入り、さらに24時間後、48時間後、72時間後、96時間後にも水風呂に入りました。これらの水風呂ケアの効果を調べるために、「筋肉の痛みレベル」「膝関節の可動域(どれくらい膝が伸びるか)」「筋力」「ストレッチ中の痛み」「クレアチンレベル」が測定されました(どのように測定されたかは、ここでは省略します)。

水風呂は筋肉痛の軽減に効果的かもしれない

実験の結果としては、6℃の水で10分間水風呂に浸かる」をやったグループが一番、トレーニング後すぐ〜96時間後において「筋肉の痛みレベル」が他のグループよりも低かった、ということでした(ただし、統計学的な有意差はこの研究では認められませんでした)。

Dグループの「6℃の水風呂に10分浸かる」とEグループの「何もしない」を比べると、一番痛みレベルが高いトレーニングから48時間後で、約20%ほどDグループの痛みレベルが低かった、という結果が出ました。痛みレベル以外に測定された「膝関節の可動域」や「筋力」は、どのグループでもあまり違いは見られませんでした。

結果として、「トレーニング後に6℃の水風呂に10分間つかる」ことは、痛みレベルや疲労感をより素早くとる効果は「何もしない」よりはあるかもしれないが、「筋力の低下」や「可動域の低下」を抑える効果はあまりないかもしれない、ということです(統計学的な有意差はありません)。

統計学的な有意差は見られませんでしたが、 参考文献以外の過去の研究/論文をみても、水風呂に入ることによる痛みレベルの低下や、疲労回復の促進の効果はありそうです。

何分間水風呂に入っていればいい?

この研究をはじめとした多くの水風呂の研究をみても、何分水風呂に入っているのが一番ケアとして効果的かというのは、まだわかっていません。

今回の参考にした研究では「1分の交代浴」「1分水風呂に入ったり出たり」「10分の水風呂」という「1分」と「10分」という長さが比較されましたが、どちらも効果はあまり変わらない、という結果でした。

何度の水風呂が一番有効?

この研究を行なった著者の考察では、水風呂につかっている長さよりも、水の温度の方が大事なのではないか、と言っています。何度が一番効果的か、というのはまだわかってはいませんが、10℃よりも6℃の方が、より早く肌の温度を下げ、筋肉痛を鎮める効果があるだろう、ということです。

ただし、温度が低ければ低いほど良い、ということは示されていません。この研究では、10℃よりは6℃の方がいいだろう、ということです。

「水風呂」に関しては、「運動後の疲労回復に効果的なのはお風呂?水風呂?交代浴?」でも読むことができます。こちらもぜひ読んでみてください。

まとめ

筋肉痛にアイシング(水風呂)は効果があるのか?について解説してきました。結論としては「効果はあるかもしれない」「やらないよりはやったほうが痛みレベルは下がるかもしれない」となりました。

アイシングを行う方法、氷の種類、アイシングを行う時間の長さ、温度など、アイシングは考えるべき要素がたくさんあります。少しでも痛みを無くし、パフォーマンスレベルを高く保つために、できることを行なっていきましょう。

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