ここ数年、糖尿病になってしまう日本人が増えています。糖尿病になってしまうと、定期的な薬の摂取・インスリン注射・検査と治療を続けなければいけなくなります。さらには合併症が起こる危険性も高くなるため、是が非でも予防しておきたい生活習慣病の1つです。

糖尿病を予防するために何をすれば良いのでしょうか?答えは簡単です。「定期的な運動」です。

今回は「運動が良いことは知ってるよ!でもどんな運動をすれば良いのかわからなくて。。。」というあなたのために、米国公認アスレティックトレーナーである私が、「どんな運動を」「どれくらいの頻度で」「どれくらいの強度で」行えば良いのか。具体的な運動内容を、最新のエビデンスに基づいてお伝えします。

糖尿病の基本知識については「糖尿病チェック10項目|8項目当てはまったらあなたは糖質中毒かも」の記事で詳しく書いています。今回の記事は、糖尿病予防のための運動に絞って書いています。


>>今回の参考文献はこちらです。

diabetes-meta-analysisThe Effect of Regular Exercise on Insulin Sensitivity in Type 2 Diabetes Mellitus: A Systematic Review and Meta-Analysis
2016年発表の、2型糖尿病の方のインスリン抵抗性に対する運動の効果を調べたシステマティックレビュー&メタ解析です。

exercise-and-diabetesExercise and Type 2 Diabetes|American College of Sports Medicine and the American Diabetes Association Joint Position Statement
アメリカスポーツ医学会(ACSM)とアメリカ糖尿病学会(ADA)のジョイント・ポジションステイトメントです。

なぜ糖尿病の予防には運動がベストなのか?

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なぜ、糖尿病を予防するためには運動をした方が良いのでしょうか?いくつか理由はあるのですが、理由の1つが「インスリン抵抗性の改善(低下)」です。詳しく解説していきます。

糖尿病を予防するには「インスリン抵抗性」を低下させる必要がある

ここでのキーワードは「インスリン抵抗性」です。

インスリン抵抗性とは、インスリンに対する感受性が低下し、インスリンの作用が十分に発揮できない状態(e-ヘルスネットより)

インスリンとは、血糖値を下げるホルモンです。「インスリン抵抗性が高まる」というのは、身体がインスリンに慣れてしまってインスリンが効かなくなってしまう状態のこと(← 良くない)。インスリン抵抗性が高まってしまうと、血糖値を正常の値に戻すために、より多くのインスリンが必要になります。

多くのインスリンを出すためには、膵臓(すいぞう)がたくさん働かなければならなくなります。最初のうちは膵臓も頑張ってインスリンをせっせと作り出すのですが、それがずっと続くと膵臓は疲れてきて、だんだん働きが弱まります。働きが弱まれば、多くのインスリンを出すことができなくなるので、血糖値が上がった時にインスリンの量が足りず、正常の値まで下がらなくなってしまい、結果糖尿病になってしまう。。。というのが、糖尿病になる流れです。

つまり、インスリン抵抗性が高まってしまうことが糖尿病になってしまう原因の一つなのです。そして、このインスリン抵抗性を低下させる(もしくは抵抗性の高まりを予防する)効果があるのが「定期的な運動」なのです。

ACSMとADAのジョイント・ポジションステイトメントにも、糖尿病になってしまうリスクファクターとして、「年齢」「肥満」とともに「運動不足」が挙げられています。

運動によって、糖尿病の指標である「HbA1cレベル」を下げることができる

しっかりと考えられた運動プログラムは、HbA1cレベルを低下させることがわかっています。

HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー/糖化ヘモグロビン)とは、赤血球の中にあるヘモグロビンAにグルコース(=糖)が非酵素的に結合したもの。糖尿病の評価をする上での重要な指標となります(e-ヘルスネットより)

健康診断などで血液検査を行うと、このHbA1cの値がわかります。6%未満であれば「正常」。6.0〜6.4%であると「糖尿病である可能性あり」。6.5%以上だと「糖尿病が強く疑われる」という評価となります。

すでに糖尿病と診断されている方は、このHb1Acを「7%未満」に維持することが目標となり、それによって糖尿病による合併症のリスクを下げることができると考えられています。

糖尿病予防のための運動プログラムの3つのポイント

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それではここから、糖尿病の予防のために「どのような運動を」「どのくらいの頻度で」「どのくらいの強度で」行っていけば良いのか、具体的に1つ1つ解説していきます。

1)運動頻度は最低週3回。72時間以上空けない

糖尿病の方でも糖尿病ではない方でも、運動をするとインスリン抵抗性が低下します。つまり、少ないインスリンでも血糖値が下がるので、インスリンを大量に作り出す必要がなくなるため、すい臓への負担が軽くなるとともに、大量のインスリンによる中性脂肪の増加などを防ぐことができます(=「肥満」は糖尿病になるリスクファクターの1つです)。

ですが、この「1回の運動」によるインスリン抵抗性改善の効果は一時的なものです。文献によれば、運動後48〜72時間は続くようですが、それ以上経つとこの効果はなくなっていきます。でも、1回の運動で2〜3日も効果が続くってすごくないですか?

よって、これから運動を始めるという方は、まずは「48〜72時間(=2〜3日)以上空けないで定期的に運動をする」ことを習慣にしてほしいなと思います。48〜72時間以上間を空けないように運動を行うことで、一時的なインスリン抵抗性の改善効果が続きます。習慣として運動を続けていくことで、この一時的な効果が体質となっていくため、運動によるインスリン抵抗性の低下は一時的ではなくなっていきます。

2)運動強度は中程度以上

あまりに強度の低い(=とてもラクな)運動では、インスリン抵抗性の改善の効果はないようです。ACSM&ADAの文献では「早歩き」は中程度の強度の運動と呼べるだろう、と示しています。つまり、早歩きよりも強度の高い(=早歩きより疲れる)運動をしましょう。

余裕があればより高い強度の運動にも挑戦できるとより良いです。

3)運動時間は一週間で150分以上

ACSM&ADAの文献には、糖尿病の改善・予防のためには「中程度の強度」で「週150分以上の運動」が推奨されています。もし一週間に150分も運動の時間がとれないという方は、時間を短くする分、強度を上げる必要があります。具体的な運動プランは、下で紹介するのでそちらをご覧ください。

糖尿病予防運動プログラム実践編

それでは、文献を参考に、私が考えた糖尿病予防のための運動プログラムを紹介します。

私がオススメする運動プランは、「有酸素運動」と「筋トレ」の2種類を組み合わせるプランです。この2種類を組み合わせて、「一週間に150分」の運動を行なっていきましょう。

理想は、2種類を組み合わせて150分ではなく、有酸素運動を一週間で150分やって、それに加えて筋トレを行うことです。ですが、全然運動をしていない方がいきなり「週150分+筋トレ」を始めるのはなかなか厳しいと思います。なのでまずは、「有酸素運動と筋トレを合わせて150分」を目指していきましょう。

1)週3回の有酸素運動

糖尿病を予防していくためには、やはり有酸素運動は欠かせません。

頻度としては「週3回」はやりたいです。ですが、1回に1時間もやる必要はありません(やれる人はぜひやってください)。参考文献には、一回の有酸素運動として「最低10分」はやりましょう、と明記されています。10分間の有酸素運動を週3回やれば、合計30分。一回20分やれば、週3回で60分になりますね。残りの時間は筋トレをして、一週間の合計を150分にします。

有酸素運動の例はこちらです。

  • 早歩き(時速6.5kmくらいのペース)
  • ジョギング
  • トレッドミル(上左写真。ジムにあるランニングマシン)
  • クロストレーナー(上右写真。手と足を乗せて全身を動かせる有酸素マシンです)
  • エアロバイク
  • 水泳(泳ぐのはもちろん、プールの中でウォーキングもとても良い有酸素運動です)

例えば通勤で10分間早歩きをすれば、それも有酸素運動になります。なかなかまとまった運動の時間を作れない方は、ぜひ生活の中で工夫して有酸素運動を取り入れていきましょう。

私の職場であるフィットネスセンターでは、スタジオレッスンとして「エアロビクス」「ZUMBA(ズンバ)」「ボクササイズ」を行なっていますが、これらもとても良い有酸素運動です。もしお近くのジムで興味のあるスタジオレッスンがあれば、それに参加してみるのも良いですね。

2)週2〜3回の筋トレ

有酸素運動とともに、筋トレも行うとより良いです。特に「大きい筋肉(=大筋群)」を鍛えることで、より多くのエネルギーを消費することになり、血糖値のコントロールに繋がります。

というわけで、ここからオススメの大筋群トレーニングを紹介していきます。できればジムなどに行って、マシーンやダンベル・チューブなどを使えるとより良いです。もしそれが厳しい場合は、家でもできるようなウエイトを使わない自体重での運動でも大丈夫です。

先ほど、「一週間に150分の運動時間がとれない方は、時間を短くする分強度を上げましょう」とお伝えしました。強度を上げるにはやはり、ジムへ行ってマシーンやダンベル等を使うのが一番効率的で効果的です。ジムに行く時間がない場合、ウエイトを使うことができないとなかなか強度を上げるのが難しいので、その分時間をかけて行いましょう。

A)ダンベルスクワット

誰でも「スクワット」という名前は聞いたことがあると思いますが、下半身の大きい筋肉をすベて使う素晴らしいエクササイズです。慣れてきたらぜひバーベルも使ってみてください。

  • 回数:10〜15回を1セットとして3〜4セット(セット間は1〜2分休憩)
  • ダンベルの重さ:15回やったら結構疲れるくらいの重さ

  1. (両手にダンベルを持って)肩幅か、やや広めに立つ
  2. すぐ後ろに椅子があると思って、その椅子に座るように腰を落としていく
  3. 理想は、ももが床と平行になるところまで腰を落とす(膝に痛みがある人は、痛みが出ないところまでで良い)
  4. 両足はしっかり床につけたまま。かかとやつま先が床から離れない
  5. 腰から首にかけて、丸まったり反ったりせずにまっすぐをキープする

ダンベルの重さの決め方】 ダンベルの重さを「15回やったら結構疲れるくらいの重さ」と書きました。初めてスクワットをやる方は、まずはダンベルを持たずに15回やってみます。15回やって、そのまま続けてまだ10回くらいはできる!という感覚の場合は、次のセットはダンベルを両手に持って15回やってみましょう。もしダンベルを持って15回スクワットをして、それでもまだ続けて10回はできる!という感覚の場合は、ダンベルの重さが軽すぎます。「15回やったら結構疲れて、あとできても4〜5回かな」くらいの感覚になる重さでやりましょう。

B)グルーツブリッジ/ヒップリフト

家でもできるとても良いエクササイズです。バランスボールやチューブなどがあれば、より多くの筋肉を使うことになるためベターですね。

  • 回数:10〜15回を1セットとして3〜4セット(セット間は1〜2分休憩)

  1. 仰向けになって、膝を立てる
  2. 両手は身体の横で斜めに広げる
  3. 息を吐きながら、お尻を上げる(肩から膝までが一直線になるように)
  4. お尻を上げた時に腰を反らないように注意(上げる時に息をしっかり吐くことで、腹筋に力が入って腰が反りづらくなります)

バランスボールを使ったグルーツブリッジのやり方はこちらです。地面で行うよりも強度は上がります。

  1. 仰向けになって膝を曲げ、両足をバランスボールの上に乗せます(足の裏がしっかりバランスボールに触れるように)
  2. バランスボールが動かないように、息を吐きながらお尻を上げていく
  3. 肩から膝までが一直線になるところまでお尻を上げる

C)レッグプレス

ジムに行けばほぼ必ずあるマシーンだと思います。下半身の筋トレでマシーンを1つだけ使うとしたら、私はレッグプレスをやると思います。

  • 回数:10〜15回を1セットとして3〜4セット(セット間は1〜2分休憩)
  • マシーンの重さ:15回やったら結構疲れるくらいの重さ

マシーンによって微妙に使い方が違うかもしれないので、詳しい使い方はそのジムのトレーナーに聞いてくださいね。

D)ラットプルダウン

上半身のトレーニングで1つだけマシンを使うとしたら、私はラットプルダウンをやると思います。

  • 回数:10〜15回を1セットとして3〜4セット(セット間は1〜2分休憩)
  • マシーンの重さ:15回やったら結構疲れるくらいの重さ

こちらも、ジムにあるマシーンによって使い方が違うかもしれないので、トレーナーの方に使い方をしっかり聞いてくださいね。

E)腕立て伏せ(プッシュアップ)

家でもできる、素晴らしい上半身のトレーニングです。

  • 回数:10〜15回を1セットとして3〜4セット(セット間は1〜2分休憩)

  1. 両手と両足は肩幅に
  2. 頭からかかとまでを常にまっすぐにキープしながら両肘を曲げて、胸からももにかけてを床スレスレまで下げる
  3. 呼吸は止めないように行う

やり方次第では、とても強度の高いトレーニングになります。

「腕立て伏せ」についての記事あります。「特別な道具は必要なし!7種類の効果的な腕立て伏せのやり方」をぜひご覧ください。

F)ダンベル・ベントオーバーロウ(ワンハンド)

ダンベルを使った腕・背中のトレーニングです。とても簡単で、とても効果的なトレーニングです。

  • 回数:10〜15回を1セットとして3〜4セット(セット間は1〜2分休憩)
  • ダンベルの重さ:15回やったら結構疲れるくらいの重さ

  1. 片方の手でダンベルを持ち、もう片方の手はベンチにつく。更に、手と逆側の膝もベンチにつく(もし左手にダンベルを持ったら、右膝をベンチにつく)
  2. ベンチについている手は肩の真下に。ベンチについている膝は股関節の真下につく
  3. 背中から腰にかけてはまっすぐをキープ
  4. ダンベルを真上に引き上げる

上半身3種目、下半身3種目を紹介しました。どれも身体の大きな筋肉を使うトレーニングになります。1回のトレーニングで5〜6種目できると良いでしょう。

3)日常生活での運動(=身体活動)を増やす

「運動をしよう!」と思って行う運動の時間以外でも身体を積極的に動かすことで、よりエネルギーを消費し、血糖値の上昇を防いだり、減量につなげていくことができます。「通勤で早歩き」以外に、生活の中で取り入れることができそうな身体活動をいくつか紹介します。

A)お昼休憩は外でランチ

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ランチはぜひ、会社内の社食ではなく、外に出て食べましょう。行き5分、帰り5分の往復でも合計10分のウォーキングになります。もし家からお弁当を持っていく方も、ぜひ外に出て少しでも歩いて、公園のベンチなどで食べましょう。

歩くことで単純にカロリーを消費することができるのはもちろん、食後に歩くことは血糖値の急上昇を防ぐことができます。

B)1時間に1回は席を立つ・動く

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特にずっと座りっぱなしのデスクワークが多い方は、一時間に一回は席を立ちましょう。その場で立って大きく伸びたりストレッチをするもよし。トイレに行くもよし。お水やコーヒーを取りに行くのもよし。ただ単にちょっとその辺を歩き回るもよし。定期的に席を立って少しでも動くことでカロリーを消費することもできますし、動くことは肩こりや腰痛を防ぐことにも繋がります。

トイレに行く場合は、一番近い場所ではなくちょっと遠い場所にあるトイレを使うと、より歩く時間を稼ぐことができます。1フロア上のトイレを使って、移動に階段の昇り降りを加えるとさらに良いですね。

C)階段は絶好の運動チャンス

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階段は絶好の運動チャンスです。オフィス内の階段はもちろん、駅の階段、家から駅まで行く途中にももし階段があればぜひ昇り降りしましょう。

階段の昇り降りは、日常生活の中でも比較的簡単に行えて、しかも強度の高い身体活動です。階段を見つけたらラッキーだと思ってとりあえずのぼる。のぼって、降りる。余裕があればぜひダッシュで駆け上がりましょう!

まとめ

糖尿病は、それにとどまらず様々な病気を引き起こすとても怖い生活習慣病です。

今回は紹介しなかったですが、「食事のコントロール」とともに「定期的な運動」は糖尿病の症状改善&予防のために必須です。日常生活での身体活動を増やすとともに、運動の時間をしっかりスケジュールに組み込んで、自分の身体のコンディションをより良い状態にしていきましょう。

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